シンガポール航空エアバスA380搭乗記

 その存在を知ったのは2006年でした。世界最大、総二階建てというまさにけた外れのそのサイズに一発で心を奪われてしまった。最初の就航地はシンガポール〜シドニー。第二の故郷に行くとあればそれは放っておけない。しかし、完成の遅れから本来の初就航となるはずだった2006年末にはその姿を現さず、ようやく完成した2007年末もその話題性から本格的に就航していないにもかかわらず座席は満席の状態、ロンドンに就航しても、成田に来てさえもそれは変わらず、そのまま一年が過ぎてしまった。
 そしてその時はやってきた。2009年5月、ついに3年越しの願いは実り、成田〜シンガポールのフライトで世界最大の旅客機エアバスA380に搭乗することとなりました。
 そしてこの記念すべきフライトでエコノミーに乗るのはもったいない。というわけでビジネスクラスにて今回のシンガポールへの7時間を満喫することにしました。とにかくそのすべてが常識破りのフライトのレポートです。


往路(2009年5月3日 SQ639便 成田〜シンガポール)
 今回は念願かなって往復ともにビジネスクラスの席が取れたので、あのチェックインや搭乗の際の長蛇の列に加わる必要がない。ビジネスクラスのすごさは既にロンドン旅行のときに経験済みなので浮き足立つこともなくチェックインも、出国審査も余裕を持って行い、搭乗まではラウンジでのんびりと酒でも飲みながら待つことにする。個人的な思い込みから命名した「世界三大金満エアライン」のひとつ、シンガポール航空のことだからさぞや豪華なラウンジがあるだろうにと思ったら、あっさりとANAのラウンジに通された。ま、これはコレで安心できるのだが。とりあえず全自動サーバーで注がれた生ビールを飲みながらノートPCを開き、すっかり更新を放棄してしまっているブログを一応更新して、それから先は本でも読みながら一人酒盛りを始める。
 ここまでは普段の旅行と変わらないが、ここまでの行程が全て無料だというのがすばらしい。普通ビジネスクラスに乗るにはそれ相応の金額を払うのだからこれくらいタダなのも当然といえば当然か。いい気分になったところで搭乗時間となったのでゲートに向かうことにする。
 成田空港第1ターミナル南ウイングにある46番ゲート。この一番端っこにある搭乗口こそ現在成田で唯一のA380用の搭乗口となっている。何が違うかというと、その総2階建ての巨体ゆえボーディングブリッジが従来機より一つ多い。1階部分にいくのが2つ、2階部分へ行くのが1つ。今回は2階にあるビジネスクラスだから上に行く方のゲートから入る。そして機内に入るとすぐにビジネスクラスのシートがお出迎え。A380は2階席の広さだけでもA340と同程度あるそうだがそのキャビンに贅沢に1-2-1配列でシートが並んでいる!驚いたのはそのシート幅。エコノミークラスなら二人分はあるはずだ。シートベルトもシートの途中から出ている。さっきまでラウンジで座っていたソファと遜色ない、いやそれ以上の豪華さだ。パッと見、シートピッチが狭く感じるが足を置くスペースもしっかりあるし、この幅の広さならまったく気にならない。むしろモニターとの距離が近くて見やすいくらいだ。
←2階部分のほとんど占めるビジネスクラスのシート。尋常ではない広さ!

 一人旅なので指定した座席は一列のみの窓側、しかも利き腕が自由に動かせるように右側(つまり左側が通路)に陣取る。普段は「中央左通路側」が定位置(比較的不人気の場所だけど、コレを手に入れるために早めのチェックインは必至)なのでそれにならった理想の位置だったが、そのあまりのシート幅の広さならばそんなことも関係ない。本やPCが入ったバッグはシート下に、パスポートや航空券、宿の予約控えなどを入れる肩掛けカバンは壁側のストレージに入れてくつろぐ準備は万全。ウェルカムドリンクのシャンパンを飲みながら窓の外を眺める。ビジネスクラスキャビンのほぼ真ん中のシートからはA380の巨大な主翼とエンジンがよく見える。グラスを空にし、ちょうどいい気分になったところで離陸に向けて一路滑走路まで向かった。

↑シートが広いからシートバックも広々。窓側には収納スペースも多いので、手荷物を気にせずゆったりとできます

 午前中のこの時間はアジア方面はもちろんヨーロッパ行きの便も多く出発するので離陸に向けては結構な順番待ちを要する。ようやくその順番を向かえ、どっかりとその巨体が滑走路の端に鎮座し、宙に浮くべく四基のロールスロイス・トレントが唸りをあげる・・・はずなのだが、ジェットエンジン特有の大轟音がない。しかもこんなに主翼とエンジンに近いところにいるのにもかかわらず、いたって静かに助走をつけて飛び立ってしまったのだ。
 気がつくとあっという間に水平飛行。すぐにCAのオネーサンがドリンクのサービスをしてくれる。とりあえずギネスがあったのでそれを飲んでいると間髪いれず今度はサテのサービスが。マレーシア航空のビジネスクラスにサテが出てくるというのは有名だが、お隣シンガポールにもやっぱりこのサービスがあった。牛、鶏、羊が各一本ずつで味もクアラルンプールで食べたものに比べてもまったく劣らない。
←屋台飯の代表、サテだってシンガポール航空の手にかかればこんなに上品に

 食事が出るまではシンガポール航空ご自慢の機内エンターテインメント「クリスワールド」をいじくり回す。すでに今まで2度、シンガポール航空を利用して、プログラムの充実ぶりは分かっていたが、それを映し出すのが15.4インチのモニターで、音が聞こえてくるのがエンジンの音がまったく耳に入ってこないノイズキャンセリングヘッドフォンからというのがさすがビジネスクラス。画面の解像度も自宅のアナログテレビよりも鮮明だ。もとより映画はあんまり見ないので旅関係やスポーツ関係のテレビプログラムを見つつ、待ってましたの食事の時間。
 食い道楽の自分としては飛行機の機内食も存分に楽しむのだが、メニューもやっぱり桁外れの豪華さ。前菜→メイン→デザートのコース料理でテーブルを賑やかにしてくれる。

↑これが機内食!思えばシンガポールに旅行してこんなにキレイな盛り付けの料理を食べることなんてめったに無いですね。
 
 ちなみシンガポール航空ではビジネスクラス以上の場合、事前に機内食のメニューを指定できる「Book the Cook」というサービスがあるのだが、そんな予定された旅なんていやだ!ということでこういうときはやっぱり出たとこ勝負でその場で選ぶことにする。

 まず前菜は鴨の燻製とシーフードサラダが盛り合わせで来た。メニューの字面で多くの品目が並んでいると結構なボリュームを想像してしまうのは下町人間の悪いクセで、いざ実物を目の前にしてそのまとまり具合にしばし閉口することもあるのだがほとんど動く事のない飛行機の中ではこれくらいが妥当なところか。
 メインはあえてパスタを選択。肉ならシンガポールに着いてからサテをイヤというほど食べられるし、雲丹ソース+エビ+きのこ、という「大好物三段攻撃」にやられたというのが大きな理由だけど、頼んでから重大なことに気づいた。そう、日本とイタリア以外でのパスタは非常に分の悪いギャンブルだった・・・まあ、中華麺を食べるシンガポール人なら大丈夫さ!とかすかな希望を抱きいざ対峙。アルデンテには少し遠いが、以前にダブリンで食べたフニャフニャのパスタに比べればかなりなましだ!さすがはシンガポール航空!
 ここまで酒は白ワインで通した。というより少し前に比べて息巻いて赤ワインを飲もうと思わなくなってきているのが本当のところ。食後はシンガポール航空オリジナルのカクテル「シルバークリス・スリング」でサッパリと締めた。

↑甘いものはあんまり食べないのでデザートの代わりにチーズを。飲んでいるのは”シルバークリス・スリング”。

 食事も終わりまだまだ時間があるのでいよいよこのシートをフルフラットのベッドにしてみることにする。電動で座ったままフラットになっていくシートもある中、席を立って手動で変えるタイプ。しかしワンタッチであっという間にベッドに早変わり。シーツも毛布もベッドの部分であるシートの後ろ側に用意されていて、座っているときは邪魔にならず、寝るときはすぐに使える状態で出てくる。早速横になってみる。フットレストの部分に足を置き、頭は頭1.5個分のくぼみにピッタリとはまる。すぐ横は後ろの席のフットレストがあるのでふくらんでいるが、閉塞感はまったく感じられない。幅広のシートに斜めに寝そべる感じだから意外にシートピッチが狭くても十分なのだということが分かった。軽く一時間眠ったあとは、ベッドの状態で座ってみる。何よりあぐらをかけることが日本人としては嬉しい限りで。ソファのように座るシート状態とはまた違う快適さが味わえる。まさに家のベッドと同じような居心地だった。

↑普段窓側の席は座ることが無いのでこんな写真も珍しい。青い空と白い雲が実にすがすがしい。

 そんなこんなで着陸態勢になり、ベッドをシートに戻してお行儀よく座る。窓の外からは傾いてきた太陽が雲に反射してまぶしく光っている。どんどんとその雲の中に入り込んで行ったかと思えばシンガポールの国土が眼下に広がってきた。国土が見えてきたかと思ったらあっという間に東の端のチャンギ国際空港に着陸した。ボーディングブリッジを通るとターミナルの窓から今まで乗っていたA380が異様なまでによく目立つ。今まで乗っていた機体がどれだけの大きさだったのかを再認識させられた。

↑やっとのことでチャンギ空港に到着。とにかく広いのでフライト後のなまった体を動かすのには最適です。


復路(2009年5月6日 SQ638便 シンガポール→成田)
 帰りは夜便だし、朝成田についたら数時間もしないうちに仕事だからテンションも行きとは段違いで低いが、復路ならではの楽しみもある。それが、ラウンジ。海外の航空会社で成田に自前のラウンジがあるのは限られているし、広さもそれほど広くは無い。成田でANAのラウンジが広々としていて快適なように、航空会社のハブとなっている空港にあるラウンジも時としてものすごいものがある。まして「世界三大金満エアラインの」ひとつ、シンガポール航空のことだからよほどすごいものに違いない。ということでチェックインを済ませた後、免税店で軽くお土産を買った後は一直線にラウンジを目指した。

↑ビジネスクラスラウンジの入り口にて、中はとてもカメラ片手に撮りまくれる雰囲気ではありません。

とるものとりあえず洗面所に行くとなんとシャワールームがある。日中炎天下の中を汗だくで歩き回ってきた身にはこれはありがたい。キレイサッパリしたところでラウンジを見渡すとなんと端が見えないくらい広い!あまりに広いので全部見て回って見る気も失せ、適当なところで腰掛けてビールを飲むべくバーカウンターに向かう。ここではタイガービールをドラフトで飲むことができた。皆が皆タイガーライブで注ぎ方を教わったわけでは無いだろうが、おかわり自由だから少しくらい泡が多くても関係ないのだろう。風呂上りの生ビールはとにかくうまい!飲みながら本日の日記を書きつつ、ネットで日本の状況を確認。軽く飯も食べられるのだが、すでにホーカーで食べすぎなくらい食べてきたのでパスして搭乗時間を待ち、再びA380に乗り込んだ。もちろん帰りもあの幅広シートで寝て帰る事ができるとあれば気も楽というもの。ウエルカムシャンパンを一気に飲み干し、飛行機が離陸したら後はシートを倒して夢の中へ。ヘッドホンをしていればエンジン音などのノイズも気にならないから熟睡できる。起きてからは朝飯にナシ・ルマッを食べて心身ともにリフレッシュし、定刻どおりに成田に到着した。


 と、言うわけで始めてのA380でのフライトは終始快適なまま終わりました。ほかのエアラインのA380も制覇してみたいな、という野望も出てきますが、一体どれだけ時間がかかるのやら。とりあえず次は近日日本就航予定のエールフランスあたりを狙っておきますか。でも、がんばってビジネスクラスに乗るならエミレーツもいいかな・・・
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