クリケットのお話

(2004年8月作成、2010年1月更新、2016年6月再更新)

↑オーストラリアのトロフィー屋で見つけたクリケットのトロフィー。こういうのを作るだけの需要があるということですよね。

 UK発祥でコモンウェルス(旧イギリス連邦)で人気のあるスポーツと言えばなんと言ってもクリケット。日本人のクリケットの知識は「野球の先祖」「一試合が長い」「ルールがわからない」、「日本語に直すとコオロギ?」というくらいのもの。これは、そのうちどれかひとつは別として私がオーストラリアで会った日本人が多く口にしていたものですが、クリスマスシーズンにほぼ毎日のようにテレビで試合を放映しているのを見ていたら、「これはなかなか面白い」という結論に達しました。
 ルールが分かったから試合の流れも理解できるようになっただけですけどね。それにシドニーに住んでいたときは家の向かい、正確には道路と公園をはさんだ向かいにシドニー・クリケットグラウンドがあって、試合のたびに大渋滞を引き起こし、パブが立錐の余地なしというほど人であふれかえっていました。邪魔なんですけど・・・散歩ついでに試合を見に行こうと思ってもチケットは売り切れの場合が多いし、家のすぐ近くにあった学校では子供が休み時間のドッジボールのノリでクリケットをやっていたし、休みの日には近所の公園で草野球ならぬ草クリケットが見ることができました。どうやらそこまでメジャーなスポーツらしい。恐るべし、クリケット。
 ちなみにクリケットの競技人口はサッカーについで世界第2位なのだそう。8億の人口を誇るインドでほぼ国技ともいえるほどに盛んに行われているのが決め手となっているようです。

クリケットのルール

 クリケットはボールを投げてバットで打ち返すという点では野球と共通しています。投げる側はボウラーといい、バットで打つ側(バッツマンという)の後ろにあるウィケットという棒を壊すために投げます。ウィケットの後ろには野球のキャッチャーに相当するウィケットキーパーがいてこの人だけグラブをつけます。1チームは11人で構成され、守備側はボウラーとウィケットキーパー、それ以外の9人はフィールドで守備に尽きます。攻撃側はあらかじめ決めた打順に沿って打席に立ちます。

↑クリケットの3点セット。ボール、バット、ウィケット。バットは柄つきで扁平な形をしています。

 ボールは助走をつけて投げてもいいのですが、投球の際は肘を曲げてはいけません。そしてバッツマンはそのウィケットを壊されないようにボールを打ち返します。ウィケットはフィールドの真ん中に2本あり、片方では次の打順のバッツマンが待機しています。グラウンドも特殊で、楕円形をしています。その形状から親しみをこめてクリケットグランドは”Oval”と呼ばれることも。その楕円の中心でボールを投げて打ち返すというやり取りが行われます。面白いのは野球のようなファールグランドがなく、よってバッツマンの後ろ側にも守備をしかなければいけないこと。
 オーストラリア人が野球を見たら「後ろ側がガラ空きなのにどうしてそこを狙わないんだ」と、言うとか言わないとか。

↑左が野球、右がクリケットのグラウンド。
 野球の試合でネット裏へ飛んだファウルを見て「6点取った」と小躍りするオーストラリア人も、いるとかいないとか。


 得点は打ち返されたボールがフィールドを転がっている間に2人のバッツマンが互いに反対側のウィケットに行き着くと1点、そしてまた反対側のウィケットにいければもう1点という具合です。ほかにもボールがゴロや、フィールド内でバウンドしてからグラウンドの外周まで行くと無条件で4点が入り、ホームランよろしくダイレクトに外周までボールを飛ばせば6点入ります。一人で50点取ることを「ハーフセンチュリー」、100点取ると「センチュリー」と言います。

一方アウトの取り方は
  1. 打ち返されたボールをノーバウンドで捕球する。
  2. バッツマンが反対側のウィケットに着く前にウィケットを壊す。
  3. 投げたボールがバッツマンのバットに当たることなく直接ウィケットを壊す。
  4. バッツマンがバットで直接ウィケットを壊してしまう。打つ際に足が触れてもアウト。
  5. ウィケットキーパーが投げられた球を捕球しウィケットを壊す。(バッツマンが打席の外で空振り、見逃しをした場合)
  6. バッツマンが足でボールがウィケットに当たるのを防いだと判断された時もアウト。
 あたりが試合でよく見られます。基本的に送りバントのようにその場でちょこんと当てるだけでもバッツマンが走らなければアウトになることはありません。少なくともボールを打ち返さない方がアウトの可能性が大きいので、打ち返しにくいボールは概してそう扱われることが多いです。プレーヤーが一巡する10アウトでようやく一回の攻撃が終わり、それを最長2イニング行うので長いときには一試合が一週間近くかかるのです。逆に守る側は1アウト取るだけで相当な労力を要するため、たった一つのアウトで大騒ぎします。試合に勝ったかと思うくらいです。最初のうちは守備側が大騒ぎしたらアウトだと思いながら見ましょう。
 ちなみに一人で連続3アウトを取ることがクリケット版の「ハットトリック」です。

リミテッドオーバールール

 テストマッチと呼ばれるフルイニングを行うルールでは間違いなく一日では終わりません。紳士の国英国発祥らしく、試合の合間にはティータイムも設定されているくらいですから。これでは見る方もやる方も疲れてしまうので、最近では大幅に時間を短縮できるルールができて国際試合にも適用されています。これがリミテッドオーバールールです。
 クリケットはボールを投げるほうが6球ごとに交代し、この6球が1オーバーという単位になっていますが、リミテッドオーバールールはこのオーバーの数に制限を加えるものです。、

これならどんなに長引いても一日で終わりますね。現在クリケットのワールドカップはワンデイ・インターナショナル・ルールが採用されています。
 また、球数が少ないために少し甘い球なら4点6点を狙って積極的に大振りしていくことが多くなります、特にトウェンティ・トウェンティ・ルールだと20オーバーで10アウトになることは少なく、その傾向が顕著で豪快な試合展開が楽しめます。ルールによって見所が変わってくるのもクリケットの魅力といえるでしょう。

クリケットの強豪国たち

 かつて7つの海を制覇した大英帝国のスポーツということで現在では多くの国がクリケットの代表チームを組織しています。あまり知られていませんが実は日本もその国の中のひとつです。本国UKはサッカーと同じように地域ごとにチームが分かれますが、独自のチームを持たないウェールズはイングランド代表に含まれ、北アイルランドは南北合同で「アイルランド代表」を構成しています。
 面白いのが各国代表チームに歴史や実力などによって格があること。これも英国らしいと言えばらしい特徴です。その頂点が「Test Status」(テストステータス)と呼ばれるもので、イングランド、オーストラリア、南アフリカ、西インド諸島、ニュージーランド、インド、パキスタン、スリランカ、ジンバブエ、バングラデシュの10カ国がステータスを得ています。

↑最も古いテストステータスチーム、イングランドとオーストラリア。この2チームのテストマッチは伝統的に”The Ashes”と呼ばれています

 テストステータスのチームは2イニング、オーバー制限の無いテストマッチで試合ができるだけでなく、クリケットワールドカップにも予選免除で本選に進出することができます。実際にこの10チームの実力は他の国をはるかに凌駕していてこれらの特権も当然といえます。ちなみに「西インド諸島」は英語で”West Indies”といい、ジャマイカ、バルバドス、トリニダート・トバコなどなどのカリブ海の独立国、海外領土などの連合チームです。
 このテストステータスの下には「One-day International(ODI) Status」があり、この格付けのチームとテストステータスのチームがワンデイ・インターナショナル・ルールで試合ができます。こちらは期限付きで、ワールドカップ予選会の上位6チームに与えられています。これらのチームが一般的に「強豪」と呼ばれるチームで、テレビ中継などメディアへの露出も多いです。
 

ユニフォーム

 やはり紳士の国のスポーツ、基本は白い襟付きのシャツに同じく白いスラックスといういでたちをしています。春先など涼しい時にはベストを着ることもあります。
 しかしテレビ中継が盛んになった現代では見分けがつきにくいのと、商業的な思惑もあって、今ではほとんどの国で2種類以上のユニフォームがあります。
 たとえばオーストラリア代表の例を挙げると、ひとつはテストマッチなどの格式ある国際試合で着る基本に忠実に白一色のもの。スポーツマンとして清廉潔白な精神を表すとともに、日差しを反射させるので暑さ対策にもなっています。スポンサーロゴも目立たずおとなしめです。

 もうひとつはODIルールで使うオーストラリアのナショナルカラーともいえる黄色と緑のツートンカラーです。こちらはスポンサーロゴが大きく描かれていることが多く、オーストラリアならカンタス航空やコモンウェルス銀行、VBなどが。イングランドならボーダフォンやウェイトローズのロゴが描かれています。他のスポーツの例にもれず、ファンがレプリカを着て応援するので重要な収入源になっています。ラグビー同様襟付きなのでフォーマルウェアとしてそこそこ通用します。(←仮にドレスコードに引っかかっても当方責任は負いかねます。)
 最近ではカラーユニフォームがワンデイインターナショナル用とT20用にさらに細分化されている国もあるようです。

(左)基本の白いユニフォーム。大抵はヘルメットや帽子でチームを見分けます。
(右)一方こちらはカラフルなバージョン。(左:イングランド、右:インド) スポンサーロゴも大きいです。

国別だけじゃない!クリケットのプロリーグ
 年間を通して行われるクリケットの試合ですが多くの場合は国と国との対抗戦、または地域対地域の対抗戦となっています。しかし、これだけ人気のあるスポーツなのだからプロリーグもあっておかしくないはず。そう思った方、大正解!ちゃんとプロリーグがあるのです。
 
大規模なリーグとしては

インドのインディアン・プレミアリーグ(Indian Premier League)
オーストラリアのビッグ・バッシュ・リーグ(Big Bash League)
西インド諸島のカリビアン・プレミアリーグ(Caribbean Premier League)

があります。開催期間は1〜2か月と短いですが、いずれも世界各地のトッププレーヤーが集結するリーグです。リーグ期間が短いので中には各リーグ掛け持ちするスタープレーヤも。スタジアム観戦がしやすいように基本はナイター開催、T20ルールで行われます。

(左)インディアン・プレミアリーグは世界最大規模のプロクリケットリーグ。「巨人の星」がクリケットでリメイクされるのもうなずける熱狂ぶり。
(右)オーストラリアのビッグ・バッシュ・リーグは男子だけでなく、女子リーグもあるのが特徴。


↑カリビアン・プレミアリーグは西インド諸島の各国から6チームが参戦。写真は世界屈指のパワーヒッター、クリス・ゲイル。

日本でクリケットを見たい!
 日本ではあまりになじみのないこのスポーツ。日本クリケット協会の公式HPによれば日本でも試合は行われているようですが、イングランドにオーストラリア、インドといったトップレベルのプレーを見たいとなればやはり活躍するのはyoutubeということになります。”cricket”と検索するだけでかなりの数の動画がヒットしますし、国別対抗のテストマッチ、ODIマッチ、インディアン・プレミアリーグなどは数日遅れでダイジェストがアップされるので試合日程を確認してアップされるのを待つのがベターな方法かと。ちなみにダイジェストは主に4点、6点、ウィケットのシーンなどがまとめられていることが多いです。
 
 また試合予定、詳細、ニュースなどを確認するのに便利なのが各国クリケット協会オフィシャルのアプリ。日本からでもオーストラリア、イングランド、インドのクリケット協会のオフィシャルアプリが無料でダウンロードできます。

←各国クリケット協会のアプリ。

 こんな感じのクリケットですが日本ではまずお目にかかれないので、オーストラリアを始め旧イギリス連邦各国へ行ったらまずはテレビで観戦することをお勧めします。特にテストマッチがある日は朝から晩までクリケットを放送しているので適当にチャンネルを回していればたどり着けるはずです。もちろんスタジアムに行ってみるのがもっといいのは言うまでもありません。

↑もちろん酒を飲みながら見るのも楽しい。こんな名前のパブまであります。

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