IAN-Gの無謀旅日記~香港編、その4~
期間 2015年5月3日~2015年5月5日
(行ってきた人、文、写真=IAN-G 同行者=かみさん)
↑私の場合、二日酔いのときってこういう風に世界がやや白っぽく映るのですよ。
5月3日(日)
羽田から始まる旅は少し慌ただしい。あまりに近すぎて少しくらい時間が押しても大丈夫だからだ。成田から行くとなるとかなり時間に余裕を持っていくので優雅な朝飯も、酒盛りだってできる。それにあの地震騒ぎを経験したらイヤでも早めの行動を心がけなければならない。
まあ、早い話がチェックインも事前に済んでいるはずなのに、荷物を預けて保安検査を抜けて軽く朝飯を食べたらもう搭乗時間になっていたのだ。ANAの機材は相対的にエコノミークラスが少ないのでギュウギュウ詰め感が少なく楽な方である。この時期のアジアは天気が不安定なことも多いが、今日に限っては至って順調に進み、赤蝋角に着陸。こちらも雲が若干多いが青空が広がっている。週間予報ではいつ雨が降るかわからないという感じの予報だったのでとりあえずは一安心。イミグレーションもラゲッジクレイムも待たされることなく進み、機場快線で中環まで一直線。前回使ったトラベルパスにチャージをして宿のある湾仔へ。
今回はかみさんのリクエストでこちらへ。トラムが部屋は27階、目の前が高層ビルなのでハーバービューとまではいかなかったがなかなか壮観である。ここまででも十分汗をかいたのでシャワーを浴びてリフレッシュして再び外に出る。
気温は28度、しかし湿度が80%近くあり体感の暑さは数字以上に厳しい。それに負けないようにまずは腹ごしらえ、ということで中環で遅めのランチ、もしくはボリューム満点のおやつに香港といえば外せないローストを食べる。これまでもローストは豚や鳩など食べてきたが、香港ならではのガチョウのローストは食べてなかったのでついに挑戦することに。しかも食べるところはミシュラン一つ星に輝く”一樂焼鵝”である。日曜日だし、ピークの時間は過ぎていたので並んでいる人も少ない。回転も早くすぐに席につくことができた。有名な足のローストは時間が遅かったから品切れだったが、4分の1サイズを勧められてこれに麺と飯をつけていよいよローストグースとご対面。単体では結構脂っこいがこの脂が飯に絡むといくらでも食べられてしまう。肉の締まりも良く皮はパリパリ。あっという間に完食してしまった。
↑人生初のミシュラン星付きレストランはは香港で。見た目も味も文句なし。店のオバチャンの態度は・・・
これに気を良くしてスケジュールをどんどん進めていく。中環からトラムに乗って上環の先、西滎盤へ。香港のスターシェフのプロデュースした食材屋「美味桟」があるというので向かってみたのだ。スターシェフだがかみさんには「蛭子さんにそっくり」といわれる始末である。やってきた直後は静かで落ち着いて品物を見ることができたが、しばらくすると店の目の前に観光バスが2台も止まってオッサンオバハンが大挙してやってきた。広い通路が人で埋まり、店内の品物はみるみる買い物カゴの中に入っていく。これが日本でも話題になった中国人観光客の爆買いか。全く身動き取れない状況になり結局何も買えないまま出てきてしまった。仕方なしにこの辺の繁華街ではない生活感溢れる街並みをエンジョイする。年季の入った建物や看板が多く色々と撮りたくなってしまう。ここには再開発のメスは入って欲しくないものである。
↑西滎盤に行きやすくなったのはいいけど、そのおかげでせっかく出会えたこのいい感じの町並みがなくなるかも知れないと思うとなんだか複雑です。
つい最近延伸工事が完了した新駅から港島線でもう一つの生活感溢れる街、北角へ。こちらは日曜日ということで買い物客で大にぎわいである。ここに向かった目的はかみさんリクエストのスリッパ屋。オリジナルデザインのカラフルなスリッパをおみやげに、というわけだ。屋台に毛が生えたくらいの小さい店舗だったが品質は確か(かみさん曰く刺繍の質が街場のより全然いいのだそうだ)で色々吟味して4足ほどお買い上げ。そのあとトラム通りの市場を少し歩いてトラムに追われるのを期待したがまあ、大体そういう期待をかけるとこないものだ。
↑この店の名前が日本語入力だと出ないので写真でお確かめください。
↑北角のトラム通り。電車が来なけりゃ来ないでそれもまた魅力的な通りです。トラムが通っているところは「香港編その2」でどうぞ。
北角総立占からトラムに乗って今度はビクトリアパークへ。目的は向かいの中央図書館。文房具も扱う本屋が併設されていて軽く見てみることに。入るとまず孔子、諸葛亮、王羲之など偉人の伝記絵本が目に入ってきたがさらに目を移すとfrozenに妖怪ウォッチである。随分俗っぽいなぁ。もちろん真面目な本や文房具、気の利いた雑貨もちゃんとある。ここでは筆を購入。図書館に併設しているカフェでコーヒーを飲んで一休みしてから銅鑼湾でトラムを降りる。晩飯までは時間があるのでタイムズスクエア地下の食品売り場を探検する。さすがは食の都、なんでもある。お菓子や調味料は日本のものが幅をきかせているほか、生ハムなんて脚一本で売っていたし、ウィーン名物のパンプキンシードオイルまであった。どこの国の人でもここに行けば地元の味を再現できそうである。歩き回って外に出るともう日が暮れていた。
↑銅鑼湾手前の高架下を少し行けば活気あふれる飯屋通り。すごい喧騒ですが一人飯だってOKです(実証済み)。大牌當初心者もぜひ。
晩飯はそのタイムズスクエアからスリッパ叩きでおなじみの高架道路を一本隔てた街市の向かいにある大牌當風の飯屋。香港で気軽に屋台飯ができる場所のうちの一つである。かみさんがいるのでエビ、カニ、シャコは我慢。バイ貝の塩茹でに空芯菜炒め、後はかみさんご希望のホタテの春雨蒸しとキノコ入り炒めソバ。サンミゲルがどんどん進む。入った時はまだまだ空いていた店内も気づいたら満席に。香港の飯屋はやはりこの喧騒がないと。
腹一杯になって湾仔に戻ってきたがまだ終わらない。ヘネシーロード沿いでたまたま見つけたココナッツ専門店でココナッツオイルといやげ物として缶入りココナッツジュースを買い、少し進んだら今度は許留山に出くわしたのでここで別腹のスイーツを食べ、宿の近くまで来て今度は飲み直しということで駱克道のアイリッシュパブでキルケニーを一杯飲んでから10時になってようやく宿でシャワーを浴びてベッドに大の字。実に密度の高い1日だった。さらに飲み直し?あるかなぁ。
5月4日(月)
少し寝つきの悪い夜だったが、寝酒を一杯やったらその後はグッスリいけて朝の7時に元気よく起床。早速トラムに乗って中環まで行く。前回このエリアで有名なお粥屋の羅富記に行ったらなぜか準備中で入れなかったのでリベンジである。いろんなところで見るなーとは思っていたが実際調べると中環周辺に三店舗あるらしい。中でも皇后大道中の店がトラムの停留所から近かったのでここに絞って乗り込む。前回はなんだったのだろうというくらい普通に営業中でやや拍子抜けしまったが空きっ腹にお粥を流し込む。家でもレトルト粥をアレンジして中華粥っぽいものを作るが、やはり本物は別格のうまさだ。腹を満たしてから今日は1日ショッピングである。この時点でまだ朝の8時だが香港の1日は早い。街市は朝早くからやっているからそれに対抗しているのだろうか、スーパーマーケットのウェルカムはこの時間にはもう営業を開始しているのでお土産探しを開始。お菓子や調味料が定番だが今回は乾麺の刀削麺というキワモノと最近無性に食べたい欲求に駆られているのでサテペーストを選んだ。ゆっくり見て回ると大体30分はかかる。エスカレーター近くの青空市場を見て回って10時にはチベットのアンティークグッズの店"
Telesa Coleman Tibetan Garelly"へ。
かみさんがガイドブックに載っていたここのアンティークリングが欲しいというので営業開始と同時に入る。一階の店舗はショールームみたいな感じで、実にこざっぱりした空間にオバチャンが1人。「リングが欲しいのですが」とたずねると、同じビルの4階にギャラリーがあってそこで見ることができますよ、というわけで連絡をつけてもらってそのギャラリーへ。思えば普通のビルの上階なんて普通に観光していたら入ることなんてないよな。教わった部屋番号のチャイムを鳴らし開けてくれたドアの先にはアンティークが並ぶ空間があった。客は当然我々だけ。アンティーク優先の室温設定で暑い中歩いてきたあとにはちっとも涼しくは感じないが、じっくり品定めもできてどうやら気に入ったものがあったようだ。
その次はもう少しエスカレーターを上って食器屋”興祥富記”へ。
↑エスカレーター沿いは小粋な店がたくさんありますが、その目と鼻の先にこんな実用的な店が!
ソーホーの真ん中にありながらオシャレ感は全くない。陶器で出来た関羽や布袋様の置物や色鮮やかなディスプレイ専用の皿もあるのだが、どうせ買うからには普段の食事にも使えるものの方がいい。酒のつまみを置くのにピッタリの小皿があってこれが一枚15ドル。お土産分も含めて6枚お買い上げ。かみさんは熟考の末茶器を買っていた。この店は開店が11時のはずだったが10時半にはもうやっていたので時間に余裕ができ、もう一つ行きたかった11時開店の店へ。先ほどの実用食器とは対極にあるデザイン雑貨の店”
G.O.D”である。店の前に行くと朝からガッツリ行動をする日本人観光客がたくさん開店を今か今かと待っていた。十二支や喜喜、古い香港の看板などをモチーフにした中華圏ならではのデザインが遊び心をくすぐる。ここでも小一時間見て回ってから中環を後にして、今回の旅行で初めて九龍へ。
↑九龍といえば張り出した看板。上海街周辺はカラオケ、夜総会、マッサージの看板がほとんど。
昼頃になって順調に腹が減ってきた。お粥はうまい上に消化もいい。食い倒れ旅行にはぴったりの食事である。昼頃にはもう腹が減ってきたので深水歩で毎度お馴染みの蛇羹を食べて(かみさんはパス)旺角へトンボ帰り。今回は女人街でもなく金魚街でもなく上海街の道具屋街である。まずはブルース・リーも愛用していたという肌着屋”利工民”へ。普段ユニクロしか着ない身にとってはなめらか肌触りが気持ちいい。ここも買ったのは自分用ではなくお土産用。ここまでほとんどのところはかみさんばっかり買い物していたがそのまま上海街を油麻地まで下り調理道具の店が並ぶ地区でようやく自分の買い物である。
実は今回香港に行くにあたり欲しかったのが中華包丁。家の三徳包丁が切れなくなってきて、これはこれで研げばいいのだが、肉も野菜もこれ一本でOKというのが魅力である。入った店は「
陳枝記老刀荘」。アンソニー・ボーデインも「世界弾丸ツアー」の番組で訪れ中華包丁を買っていった店で、早速中華包丁が欲しいと切り出す。一口に中華包丁といっても種類があって刀身が厚く骨ごとぶった切れるチョッパーとそれほど厚くないスライサーにまずは大別されるようだ。チョッパーの大きなものになると三国志の武将が持っていても違和感のないサイズだが、そんなにごっつい物は切らないのでスライサーで十分。それにあまり大きくても家庭のまな板の上では手に余るし、下手したらまな板ごと真っ二つという事態にもなりかねないので一番小さいクラス。それでも長さ20センチ、幅9センチもあるが、初めての中華包丁にはこれぐらいがいいや、と決定。お値段は300ドル。ついこの間日本橋の木屋で仕事用に買った牛刀が2万円だったから破格の安さである。大事に使わねばなるまい。
(左)コレがお買い上げの中華包丁。料理がより楽しくなります。
(右)「陳枝記老刀荘」の看板猫。この暑いのによくグッスリ寝られるもんだ。
と最後に大物を買って尖沙咀へ。時間は午後の2時半。今回もかみさんの希望でアフタヌーンティーである。しかも場所はビクトリアハーバーが眼前にあるインターコンチネンタル香港で。ここのロビーラウンジは予約も必要なく席数も多いのですんなりと入ることができた。実際予約しなくていいのだからとギリギリまでペニンシュラにしようかインターコンチネンタルにしようか迷っていた。すぐ目の前はヴィクトリア湾と香港島の高層ビル群。ソファでくつろぎながらのティータイムだ。ここはひとくちにアフタヌーンティーと言ってもお馴染みのサンドイッチやケーキのものだけでなく中華風のものもあり、中華風を選択。
スイーツというより点心に近く甘いものが少なかったのは自分には嬉しい。お茶は凍頂烏龍茶。今回も優雅な午後を過ごした、傍には中華包丁。
↑香港島の大パノラマを眺めつつ午後の優雅なティータイム。いつからこんなキャラになったんだっけ?
そのあとは晩飯に向けて腹を空かせるべく周辺をぶらぶら。ジャンクな品物が並ぶのは九龍の特徴で客引きさえうまくあしらえればアジアのマーケット気分は満点である。特に目的地もなく歩いていたらここまで疲れ気味だったかみさんの目が輝きだした。刺繍の店を見つけて入ってみることに。中国の刺繍は有名なのだそうだが、店の親父曰く今はほとんどが機械縫いで熟練した職人はもう数えるほどなのだそうだ。最近の若いもんは手間のかかる技術は習いたがらないからね。とのこと。香港から匠の技がまた一つ消えていくことを知る。
そして今夜の晩飯は今回の旅のメインイベント、アフタヌーンティーもメインイベントといってもいいくらいだから今日はダブルメインイベントである。プロレスの例えで悪いがホーガン対アンドレとオースチン対ロックを1日で見るほどの贅沢だ。なんとシェラトンホテルのオイスターバーを日本から予約しておいたのだ。何と言ってもこの時期に生カキが食べられる。それだけで十分幸せだが、それだけではない。このバーはホテル18階。しかも予約の際にリクエストして窓際の席なのだ。昼間とはまた違う角度でビクトリアハーバーを眺められる。予約が7時だったから8時のシンフォニーオブライツも見られるという寸法だ。前回ビクトリアピークの上から見た夜景は雨に煙ってせいぜい5万ドルくらいだったが、今回は文句なしの100万ドル。着席して夜景をひとしきり楽しんでからまずは当然生カキから。アメリカ、フランス、アイルランドと産地の違うカキを盛り合わせてもらって締めて1ダース。うまい!!旨味の詰まった小ぶりのものも身が厚く食べ応えのあるものもとにかくうまい。あまりのうまさにもう半ダースお代わりもしてしまった。こんなに幸せでいいのかしら。いや、いいに決まっている。後でカミさんに聞いたら終始満面の笑顔だったそうだ。
↑百万ドルの夜景に生カキ。夢ならどうか覚めないでくれ。
そしてここはワインバーでもあるからワインも、と浮かれてボトルで注文。ここではワインリストはiPadを使ったハイテクである。おそらく店の人にセレクションを任せなかったら多分ずっと見ていたに違いない。頼んだのは西オーストラリアの”
Ashbrook”の白ワイン。ヴェルデーリョというマディラワインに使われるポルトガルの品種だが、冷やした時の酸のキレがいい。これがスイスイ飲めてしまうのだ。メインを食べて一本空けた後はもう夢見心地、傍らには中華包丁。お値段もそれなりだったがそれも納得できるほど大満足で宿までの帰途についた…はず。
5月5日(火)
気づくと宿のベッドで横になっていた。荷物も、大事な大事な中華包丁もあるし寝巻きに着替えてもあるから無事に帰れたみたいだが昨晩晩飯を食べた後から記憶がない。さすがに一人でワイン一本は飲みすぎたか。しかしここまで記憶がポッカリ空くのなんて旅先はもとより普段だってない。おかげで昨晩の生カキの宴の記憶は上書きされることなく鮮明なままである。改めて寝直して7時に起きる。頭は痛くないし胃がキリキリするわけでもないがこれは間違いなく二日酔いだ。それでもこの時間に起きられたのだからそこまでひどくはないだろう、ということで当初の予定通り上環の「蓮香楼」に朝飲茶をしに行く。入ってすぐの席は常連の席なのか去年来た時にいろいろ指南してくれたおっさんが寸分違わず同じところに、いた。席はすぐに見つかり着席。いくら二日酔いでもここの喧騒とエネルギーに浸れば元気も出るだろうと思ったのだが、悲しいかな全く食欲がわかない。延々茶を飲むばかりである。あ、頼んだ龍井茶はうまかったですよ。横ではかみさんが点心を頬張っているが見ているだけでお腹いっぱいである。
↑それでもカメラを構える根性は見上げたもんですが、写真もまっすぐ撮れてない。
結局食べられたのはかみさんがよけたエビが数匹。不完全燃焼のまま宿へ帰る。もうこれはさらに寝直すしかないと、チェックアウトギリギリまで布団をかぶる。その間かみさんは宿の近所でお土産を買い足したりコーヒーを飲んだりしていたようだ。11時になってようやく体が落ち着いたので荷物をまとめてチェックアウト。結局雨には降られることなく全旅程を終了。今回は日中も一旦宿に帰らずぶっ通しで行動したが、今朝二時間余分に寝たことでプラスマイナスゼロ。まあ、欲張り過ぎてはいけない、ということだ。
地下鉄で中環に行き機場快線に乗り換えて空港に着く頃にはほぼ回復。飯も食えそうだということで、空港の飯屋でワンタン麺と豚のローストを一気呵成に平らげる。さらにかみさんの頼んだ麺に入っていたイカも食えたのだからこれならもう大丈夫。延々こうべを垂れたままの道中は回避できた。羽田行きの便は快調に空をいく。機内食が出る頃にはもうビールを飲んでいた。なんとも酒飲みというのは学習しない生き物である。
↑まあ、二日酔い明けにこんなの食えるのだから世話ないですな。