イギリス料理をおいしく食べる

 UK、つまりイギリスを旅行すると周囲から言われるのは決まってこのセリフ。

「でもイギリスってご飯がおいしくないでしょ?」

この誤解を説くのには相当の時間と労力を必要とします。穏便に済ますには、

「その分ビールがうまいからいいの!」もしくは

「アメリカよりましだ!」

と言っておきます。ちなみに

「イギリスのビールってぬるいんでしょ?」

といわれたら素直に認めておきましょう。これは反論の余地なしです。
 新聞広告でロンドンをめぐるパッケージツアーを見るとほとんどが最終日の晩飯という一番重要な食事を中華料理で済ませてしまうという有様はイギリス料理擁護者としては残念でなりません。

 ここまで悪名高いイギリス料理ですが、決して美味しくないわけではありません。怪しいのは認めます。それも情報量の少なさゆえの誤解となかなかいいものに巡り合えないということが根底にあります。
なぜイギリス料理が敬遠されるのか。
1.見た目が地味
 贅を尽くす宮廷料理から発展したフレンチや中華、トマトやパプリカをはじめとする色鮮やかな大地の恵みを使うイタリアやスペインの料理と違い、イギリス料理はどれも色合いが地味。彩りらしいものといえば人参とグリーンピースくらい。トマトもフル・ブレックファーストで見ることができますよね。しかし、それ以外は肉も魚も野菜も地味な色ばっかり。「目で楽しむ」ということをイギリス料理で期待してはいけません。

↑マーケットだとこんなにカラフルなんですけどねぇ・・・

 これは一つには厳しい気候ゆえ、ロクな作物が作れないということ。さらにその限られた食材を余すところなく使おうという姿勢から来るもの。特にハギスやブラックプディングなどはお世辞にもおいしそうな外見とは言えないですね。どちらも華より実を取った質実剛健の料理です。イギリスと同様に北ヨーロッパの厳しい気候条件下にあるドイツ、オランダ、それにスカンジナビアの国々の料理も見た目は地味ですよね。
 もう一つ。イギリス料理がどちらかといえば庶民の料理から発達したということ。議会政治が早くから浸透したイギリスは、マグナ・カルタの時代にとっくに国王が人間宣言をしているので贅沢な宮廷料理が発達しなかったというわけ。その土地の食べ物で豪華に作っても大して派手にはならないし、もし大陸から高級食材を取り寄せるなんて真似を王様がして、無駄に国民の税金を浪費したら議会が黙っていなかったわけです。

2.味が曖昧
 それもそのはず。イギリス料理はほとんど味をつけない状態で出てきます。どれくらい味がないかといえば、下味の塩コショウもしない場合がほとんどです。非常に繊細に味付けを決めた状態で出され、そのまま口に運べる和食などに慣れると出てきたものをそのまま食べてしまい、その味のなさに辟易するというわけ。農村や港町など、食材を新鮮なうちに提供できるところなら余計な味付けはいらないのですが、そうではない場合、往々にしてロンドンがそうなのですが、痛い目を見るのです。
 ちなみにUKのパブではほとんどの場合ペッパーソースやマッシュルームソースなどの各種ソースが別料金です。
←珍しく鮮やかな一皿ですが、使っている塩の量はおそらくゼロでしょう。

3.調理方法が単純
 イギリス料理では肉はローストかグリル、魚ならほとんどが衣揚げ、野菜は茹でただけ、と非常にシンプル極まりない方法で調理されます。何しろフランス料理でイギリス風を意味する「アングレーズ」はソースなどの付かないシンプルな料理を指すほどですから。よく言えば「素材のよさを生かした」ともいえますが、その決め手となる焼き加減、茹で加減も絶妙とは程遠いところにあることが多いです。よってここでもゲンナリしてしまいます。
 それにレパートリーが少ないのも確かで、パブのメニューでも伝統的イギリス料理に混じってインド、マレー、タイなどの料理を見ることができます。それだけイギリス料理を好んで連続して食べ続けるのも大変だということです。
 そのくせイモだけはチップス、マッシュ、ジャケット、ハッシュドポテトなど選択肢が非常に多いですがね。まあ、イモ=主食と考えればうなずける話ですが。
 しかし、単純がゆえにいい点もあります。それは「自分で作るのが楽」ということ。ローストビーフとハギスあたりを作れると結構重宝しますよ。ただ、ウナギに使う「リカー」(ウナギ屋の命)を見よう見まねで作ったら、初めてにもかかわらずそれなりのものが出来たのにはビックリしましたがね。

4.付け合わせが多い
 いろいろな種類の料理を少しずつ何皿も食べる、というコース料理という概念もイギリスにはほとんどありません。スターターとメインという感じで一応は分かれていても、これをちゃんと完食したら昼食でもその日はもうこれで充分、というくらいの量になります。大抵一皿で済んでしまうのですが、何よりその付け合わせの量がすごい。特にイモの量は明らかにジャガイモ2個分は使っているだろうと思われるくらいで、メインがイモに隠れるほど。さすがにこうなるとイモを食べきることに意識を集中しなくてはならず、結果イモしか記憶に残らない。という事態になってしまうということも往々にしてあるのです。
←ヨークシャープディングの中にはメインの肉が見えないくらいイモと野菜が
どういう風にしてうまく食べていけばいいのか?

1.味をカスタマイズしよう。
←パブにある「調味料入れ」。この中から好きなものを取って味をつけていきましょう。

 味がない、ということはいくらでも味を足せると考えましょう。たいていテーブルの上に塩、コショウ、モルトビネガーが瓶で置いてあるし、その他ソースも豊富にそろっています。これで自分の好きな味を作るのです。利用例として・・・
←これがウワサのHPソース。なんと瓶にビッグ・ベンが描かれています。一瓶85ペンスは安いけれども・・・

2.大量のチップスにはモルトビネガーを多用しよう
 脂っこいものにはすっぱいもの。これは世界共通です。そう、イギリスにはモルトビネガーという心強い味方がいます。暴力的な量のチップスでもこれをビタビタにかけると結構食べられてしまうもんです。ちなみにこのモルトビネガー、本当ににただすっぱいだけなので塩もかなりかけないと味がしません。ただ、ひとたびこれに慣れるともう病みつきなります。日本でもたまにこの酸っぱいチップスが恋しくなることも。このレベルまで来たら立派な英国紳士淑女です。
←モルトビネガーさえあればこれくらいのチップスなんて楽勝・・・だといいなぁ
3.イモの種類を変える。
 気の効いたパブだと付け合わせのイモをチップス、マッシュから選べるところがありますが、たまにはイモをチップス一辺倒からマッシュに変えてみましょう。個人的にはちょっとそんなに食えないかな?ときには迷わずマッシュにします。マッシュだとご飯のようにソースをからめたりグリーンピースをまとめて食べられるのでチップスよりも遙かに食べきりやすいです。ステーキの時などはしたたる肉汁をからめるだけでも結構うまいですよ。
 さらに気が効いたところになると本来メインにもなりうるジャケットポテトでもOKというところもあります(もちろんそんなに大きくない)。これもマッシュ同様の理由で食べやすいです。本来ならジャガイモ2つ分は使っているであろうチップスに比べてジャケットポテトなら間違いなく1個なのでどんだけ来るのかビクビクしながら待つということもないのがいいところです。

↑芋がチップスではないだけでも印象がガラッと変わりますな。(右はシドニーで撮ったものです)

4.元から味の濃いものを頼む
 いわゆる生の状態から調理するものはほとんど味をつけずに調理するので味付けが薄いのです。それならば元から味のついているものを頼めばいい、ということです。その代表格がガモン・ステーキ。ガモンとはハムのことだからこれなら最初から塩味がついているのでひとまず安心です。ただ、たまにしょっぱすぎることもあるのでこういうときに調整が効かないのがつらいところ。一杯のはずだったエールを二杯に増やすなどして乗り切りましょう。スコットランドを代表する怪食、ハギスもその特性上しっかりと味がついています。
←塩味が効いている料理代表、ガモンステーキ。朝食にあらず。

 燻製も保存性を高めるために最初塩漬けにすることが多いので味はちゃんとついている方。ただし、キッパー(ニシンの燻製)以外のものとなるとパブでは置いているところがあまりないので頼む機会は少ないかも。

5.「朝食を三度摂れ」
 サマセット・モームのあまりにも有名な言葉。正しくは「イギリスで美味しいものを食べたければ朝食を三度摂れ」。UKにはろくな食べ物がない、うまいものはフル・ブレックファーストだけだ。というわけです。まあこの国のユーモアのセンスというのは面白いもんですが、半分以上本気なのが恐ろしい。一日3度までは行かないまでも昼でも夜でもフル・ブレックファーストを食べるのです。

↑これ、ヴァージン・トレインの車内で出てきたフル・ブレックファーストです。電車の中でもこれだけ本格的なものが食べられました。

 確かに、フル・ブレックファーストは量が多い、品数が多い、味もちゃんとついているものが多い、とイギリス料理の悪いところがほとんどないのです。ボリュームも相当なものなので、極端に言えば「朝たっぷり食べて後はエールだけでいいや」、ということも不可能ではないのです。旅行の楽しみをだいぶ失っているのは否めませんがね。
 イギリス料理で一番うまいとされているだけあってこれを朝だけ出すのはもったいない、と一日中このフル・ブレックファーストを出しているパブも多いです。「ブレックファースト」を「ディナー」の時間に食べる、という抵抗さえなければしっかりとうまいものが食べられるはずです。

6.評判のいい店をとにかく探す
 UKの飲食店はかなりピンキリです。当たりに出会えればいいのですが、基本的にハズレを引くほうが多いです。


終わりに
「イギリス料理を美味しく食べる」のは大変ですが、「イギリスで料理を美味しく食べる」のは簡単です。イギリス料理にさえこだわらなければ世界都市ロンドンなら様々な国の料理をおいしくいただくことができるのもお忘れなく。

↑肉骨茶もケバブもUKでは当たり前。しかも本場並みにうまい!
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