世界のビールを飲みつくす。〜UK&アイルランド編〜

 UKといえばリアルエール、ぬるめの温度、弱い炭酸とビールの常識から外れた特異さと、その土地土地で色々な種類が飲めるのが一番の魅力。一方アイルランドはギネスが強大な力を持っているものの、その間隙をつくようにしてパブで飲めるものも沢山あります。ドイツに勝るとも劣らないビール天国へようこそ!


ヤングス(Young's)
 ロンドン近郊にある醸造所で、その地理的条件の通りロンドン市内のパブで多く見かけることのできるエールブランド。”Bitter”、”Special”、”Kew”の3種類があります。Bitterが特にリアルエールの入門編としてオススメ。ロンドンに降り立ち右も左も分からないままパブに立ち寄ったならばまず頼んでみるエールともいえますな。また、同じようにロンドン市内でよく見かける”Well's Bombardier”もヤングスの商品なのでヤングスが置いてあるパブなら飲むことができます。これも入門編として最適かと。
 醸造所は見学することもでき、昔ながらの”エールを運ぶロバ”を見ることもできます。
 またリアルエールの質もさることながら、ヤングスが飲めるパブを「泊まれる」「食事席が予約できる」などと条件付でHP上で検索できたり、パブ内に無線LAN(無料)のネットワークを構築したり、と旅人にも嬉しいサービスを提供しています。

↑ロンドンのヤングスパブ。エールもうまいが飯もうまい。中心部から少し離れた所に多いので広い店内でゆったりと楽しめるのがいいところ。


ロンドン・プライド(Fuller's London Pride)
 正真正銘のロンドン産エールで、ブリュワリーはディストリクト線のChiswick Park駅の近くとロンドン地下鉄の沿線にあります。ブリュワリーショップも併設されていてグッズからできたてのエールまで買うことが出来ます。
 もちろん市内のパブで売られていることも多く、瓶入りのものならユーロスターの一等車ラウンジにも、ヴァージンアトランティック航空のラウンジにも置いてありました。名前もシンプルで分かりやすいので注文のときもまごつくことがないのがいいところ。ほかにもここのブリュワリーのエールでは”ESB”、や”Discoverly”をよく見かけます。


グリーンキングIPA(Green King IPA)
 IPAの名の通りホップを効かしたインディア・ペール・エール。個人的な話ですがロンドンで初めて飲んだリアルエールがコレでした。リアルエールに飲み慣れたら次のステップで挑戦してみると面白いです。いきなりこれから始めるとホップの香りに抵抗が出てしまうかもしれないので。私はIPAは好きですが最初の一口はさすがにカルチャーショックでしたね。ロンドンだけでなくノッティンガムなどイングランド中部あたりまでは見かけることができました。他にも”Abott Ale”、”Old Specled Hen”といったビタータイプのエールも同じ会社のブランドです。


ペディグリー(Marston's Pedigree)
 ペディグリーもロンドンのパブの定番としてロンドン中で飲むことができます。とはいってもロンドンプライドやヤングスに押されロンドンのパブでは少数派。これもとっつきやすいタイプのエールなので安心して頼めます。ブリュワリーのウェブサイトでは”ドラフトが日本でも飲め升”と書いてありました。

 流通の発達のおかげで最近はロンドンだけでなく、スコットランドでも、遠く日本でも見られるようになりましたが、鮮度が大切なリアルエールだけに、やっぱり地元で飲むと一味違うのは気分のせいでしょうか?


ジョンスミス(John Smith's)
 オールドファッションなモスグリーン&イエローのロゴに伝統を感じさせる馬蹄型のマグネット。個人的に「イギリスらしさ」を最も感じさせてくれるブランドです。リアルエールもありますが、実際頻繁に見かけるのはケグエールのほう。HPでも「イングランドで一番飲まれているビター」と掲げており、イングランドのパブにいけばかなりの確率でジョンスミスに出会えます。味も実に絶妙なバランスのよさで飲み飽きることがありません。パブ飯と一緒に飲むエクストラコールドは特に大好きです。
←ジョンスミスのトレーラーがエールを届けに街を行く


ホブゴブリン(Hobgoblin)
 オックスフォードシャーにあるWytchewood醸造所の定番エールで、コミカルかつ少しホラーな妖精がラベルに描かれています。このホラーなラベルのおかげでハロウィン前後は英国中のパブがゲストエールとしてコレを売っています。焦がしたモルトを使っているので色が暗いのも特長。
 こんなローカルなエールなのになんと日本でも比較的簡単に飲めるんです。というのもこの醸造所のパブチェーンが日本にもあって、ここに行けばハンドポンプからサーブされるエールを飲むことができます。ボトルのものは輸入ビールを扱っているところなら入手しやすいので、手軽にイングランドの味を楽しめるとあって愛飲しています。同様に伝統的なビターの「Fiddler's Elbow」、オーガニック栽培の大麦を使った「Circlemaster」、ダークエールの「Blackwitch」という同醸造所のエールも日本で買うことができます。どれも少々ホラーなラベルなのでそこで敬遠してしまう人が多いようですけど・・・
←Angel駅の近くにあったHobgoblinのパブ。


モリッシー・フォックス(Morrissey Fox)
 新興でありながら、いや、だからこそ瞬く間にUK全土を席巻してしまったマイクロブリュワリー。看板商品の”Blond”とビタータイプの”Brunette”をメインにいくつかの季節限定エールを飲むことができます。創業者の二人が口にビールの泡をつけているラベルがほかには無い現代的なデザインです。イングランドとしては北の果てのヨークシャーにあるブリュワリーも、グレートブリテン島の中ではほぼ真ん中という立地条件と合わせてロンドンからスコットランドまで幅広く見ることができました。瓶入りはいまやスーパーでも手に入る上に、ウェブサイトでは”Blond”のレシピまで公開しています。斬新すぎですね。

↑これは”Brunette”。旧来のエールブランドとラベルを比べると実にモダンです。


ブレインズ(Brains)
 ウェールズを代表するエールブランドで首都カーディフのパブではどこに行ってもBrainsのロゴを見ることができます。聞くとラグビーやサッカーのウェールズ代表のスポンサーでもあり、その人気はアイルランドのギネス以上に根強いもののようです。
 商品ラインナップも豊富で看板商品のリアルエール”SA”だけでなく、”Blond”、”Bitter”、”Dark”、プレミアムエールともいえる”Rev.James”があります。さらに冷やして飲むケグエール”Smooth”シリーズにラガーの”45”まであって、あらゆる種類のビールが楽しめるのが心強いところですな。

↑パブの壁に鎮座するドラゴン。これが、ウェールズの日常風景。


テトレーズ(Tetlley's)
 リアルエール版はビターとマイルドが主に北部イングランドで飲めますが、それ以上にケグエール、缶入りエールの定番としてイングランド国内で飲まれているエール。さら驚かされたのが、グレートブリテン島から遠く離れたマレー半島などアジア圏内でこれを飲めたことでしょうか。あとから知ったのですが、親会社がカールスバーグなのでアジア諸国にも出回っているそうです。
 クアラルンプールではブキッ・ビンタンの大型モール「Lot10」の隣のバーで、香港でも蘭桂坊のイングリッシュパブで、シンガポールでもボート・キーのパブのほか、チャンギ空港内でも見かけて、個人的に、「グレートブリテン島以外でもっとも身近にあるエール」になっていますが日本の缶入りエールの代表は次のビールに譲るほかないですね。

↑ケグエールは冷やして飲むので炎天下のKLでも人気です。高いけど・・・


ボディントン(Bodington)
 とはいえこのエール、日本でしか飲んだことがないんですよね。香港では看板やコースターなども見かけましたが実物は見つからずじまい・・・ホームタウンがマンチェスターということはケグエール(もしかしたらリアルエールも)を飲みたいならば、マンチェスターまで行かないといけないということなんでしょうか?味はさわやかかつフルーティでアルコール度数の低さも手伝って非常に飲みやすいです。 
 最近はすっかり酒屋でビールを買うことが少なくなってしまいましたが、その間になんと本国UKのボディントンの工場が閉鎖の憂き目に遭い、徐々に日本でも飲めなくなりつつあるとのこと。実に惜しい・・・が、しかし
 2009年の秋、ついにマンチェスターに赴きリアルエール版、ケグエール版のボディントンを飲みました。リアルエール版もあるということはブリュワリーはまだ何とか稼動しているらしいです。味は缶入りとほとんど同じでしたがリアルエール特有の温度の高さがちょっと新鮮でしたね。
 一方ケグエール版は通常版とエキストラコールドがあり、冷蔵庫でよく冷やした缶入りと同じ感覚が楽しめます。また、リアルエールよりも出回っている範囲が広く、近隣のリバプール、クルウ、チェスターだけでなく海を隔ててマン島にもありました。

↑ようやく飲めた。本場のボディントン。写真がボケててすいませんが真ん中の黄色いのがボディントンのハンドルです。

バス(Bass)
 日本で一番流通しているであろうエールブランドですが、初めてロンドンに行ったときはまったくその姿を見ることはありませんでした。しかし、二度目に訪れる前にパブガイドをパラパラとめくっていると結構な数のパブでこれを置いているということを発見。しかもリアルエールのうまいパブを紹介している本だから、当然置いてあるのもリアルエールの事を指しているはず。そんなことを頭の片隅に入れながらグレートブリテン島を回っていたら、遭遇の機会は意外に早くやってきました。リバプールのライムストリート駅のすぐ隣のパブで発見!あのおなじみの赤い三角形のマークがしっかりとハンドルに掲げられている姿は新鮮に映りました。その後カーライル、ランカスターなど主に西海岸のほうで確認し、さらにマン島でも売られていました。日本でおなじみの味もぬるくて炭酸も少ないとまた違った面白さがありました。

↑どうやらハンドルは撮ってなかったようなので、せめて看板が出ているパブだけでも。リバプールにて


その他UKで飲んだエールたち(カッコ内は飲んだところ)


カーリング(Carling)
 ステラやフォスターズだけじゃない。UKにもちゃんとしたラガーがある!てな訳で今UKのパブで最もポピュラーなビールがこれ。どんなにリアルエールがうまいところでも地元の人はこれを頼んでいることが多く、なんだ、みんな本当はラガーが大好きじゃん!と、この国のビールの行く末を憂えてしまうことも。でも確かに飲むとうまいんですよ。リアルエールに慣れると強めの炭酸のピリピリ感がかえって新鮮でいいのです。全てUK産の原料で作っているということを強調するあたりもこの国の愛国心とプライドの高さが見受けられます。あと、この寒い国にどれだけ需要があるか分かりませんが、エクストラコールド版もあります。真冬に外で飲むと凍えてしまいそうです。暖炉の近くで飲めば「コタツでアイスクリーム」感覚でいいかもしれません。

↑右がエクストラコールドのカーリング。ほかにもボディントンやジョンスミスもありますね。


テネンツ(Tennent’s)
 イングランドを北上してカンブリア、ノーザンバーランドを超えたあたりで突然登場するラガービール。ブリュワリーはグラスゴーにあるというので当然スコットランドでもメジャーでした。一体どんな味なのか、試してみると・・・これがかなりドライな味わい。最初飲んだとき、UKでもこんなビール飲む時代になったんだなぁ、と一人で感心したやら絶望したやら。黄色い背景に赤字で”T”のマークはUKというよりはアメリカのノリがします。
←テネンツのドラフトタワー。2台並べると赤い”T”が浮かび上がるというオシャレなデザインです。
ただ、実際に2台並んでいるのは一回しか見てません。


ギネス(Guinness)
 本場アイルランドのギネスは日本やオーストラリアで飲んだギネスとどう違うのか?(UKではエールを飲むのに手一杯でギネスを飲む余裕がありませんでした)という疑問を持ちつつダブリンのパブで飲んだ最初の1ptの感想は・・・「日本と一緒だ!」オーストラリアで飲んだギネスが若干味が濃いかな、と思っていたらラインが汚れているときの味だったことを知っていたこともあり、結論としては「世界中どこにいても同じ味が楽しめるのがすごいのか」と勝手に納得しました。(後で聞いた話では日本のギネスもダブリンのSt.ジェイムス醸造所で作られているそうです。20リットル樽をわざわざアイルランドまで運んでいるのだとか)
 シンガポールではドラフトが飲めるところは少なく、チャイナタウンの屋台などで瓶入りの「Foreign Stout」が飲めます。ドラフトとうたっているところも大抵は缶+サージング用の機械というところが多く、本物のドラフトはクラークキー、ボートキー、オーチャードロードなどの限られたパブにしかありません。回収して再利用できる瓶をメインに流通させているあたり、ゴミを極力出さないシンガポールのこだわりがこんなところにも見ることができます。

↑世界中のギネスのふるさと。ダブリンのSt.ジェイムス醸造所。


スミディックス(Smithwick's)
 アイルランド限定のレッドエール。普通に読めば”スミズウィクス”と発音してしまう難読英語で、これを外国人が読めないためにアイルランド国内でしか飲めないというウワサもあるくらい。(別に”スミズウィクス”と言っても分かってくれるけど)
 日本でも飲まれているキルケニーはギネスのように窒素混合ガスを使ったケグエールなのに対してこのスミディックスは炭酸ガスでサーブされるいわゆる「生ビール」。炭酸の感じは少ないもののなんとなくラガーっぽいかな?と思えてしまうのはそういった理由かもしれません。ギネスに比べるとその重厚さで負け、清涼感でラガーに負け、なんとなく中途半端な感は否めませんが、これだけはアイルランドに行かないと飲めないので現地で一番飲んでいた銘柄です。

↑左が旧ロゴ(2007年撮影)、右が現在ののスミディックス。パブで手に入れたコースターをスキャンしたものです。


キルケニー(Killkenny)
 で、そのスミディックスをギネスのようにケグエールにして、アイルランド人以外でも親しみやすい名前にしたがこのキルケニー。日本でも場所は限られますが飲むことができます。個人的には口当たりがとても柔らかく、ギネスと並んで好きなビールのひとつです。日本を始め諸外国ではキルケニーのグラスはギネスの1Ptグラスのロゴを変えただけのものですが。このビールの故郷であるアイルランド、キルケニーで飲むとオリジナルのキルケニーグラスでサーブされます。
←キルケニーで飲んだ専用グラスの”キルケニー”


マーフィーズ(Murphey's)
 アイルランド南部マンスター州で飲まれている「ギネスではない」スタウト。味はギネスよりもロースト香や苦味が強いものの、さっぱりした後味で、ギネスとはまた違った魅力があります。コークをはじめとするマンスター州のパブならならばほぼ問題なく飲めるはずですが(未確認です)あまりにギネスの力が強大すぎるダブリンではほんの数件のパブでしかお目にかかることはできません。
 そんなマーフィーズに頻繁に会える大都市があります。意外や意外、オランダのアムステルダム。市内に結構な数のアイリッシュパブがありますがギネスを差し置いてメインを張っているのがこのマーフィーズ。ギネスとキルケニーの関係よろしく”マーフィーズ・レッド”なるレッドエールまで飲むことができました。何でもヨーロッパ大陸域内の販売元がハイネケンらしいのです。それならば納得がいくというもの。
 アムステルダムまでは遠い、コークはなお遠い。東京でなんとしてもこの味確かめたい人には、缶入りエールが日本でも何とか入手可能です。

ビーミッシュ(Beamish)
 これも非常にレアな「ギネスではない」スタウト。こちらは麦のロースト香というよりコーヒーのような独特な香りがあってなかなかに面白い一品です。最初にダブリンに言ったときは1軒しか置いていなかったのが地道な営業努力の結果なのか、ダブリン市内でも飲めるところが格段に増えてきました。
 アイルランドで見るのはもちろんですが、意外や意外クアラルンプールのバーでも見かけました。テトレーズとともに地元の味が恋しくなったUK&アイルランドの皆様が飲むのでしょうが、炎天下でスタウトというのはそれほどすっきりしないような気が・・・(←昼からビールを飲む人の意見。)


世界のビールを飲みつくす [オーストラリア編] [アジア編] [ヨーロッパ編]


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