世界中で食べて来たものたち
〜UK&アイルランド編〜
思えば北米、ヨーロッパ、アジアにオセアニアと随分と多くの地域をめぐってきましたが、その土地で出会った食べ物ほど記憶に残るものもないわけで、ここではUKとアイルランドで今まで食べておいしかったものを紹介していきます。やっぱり世界の料理はワンダーランドです。
フィッシュ&チップス(UK&アイルランド)
ご存じブリテン諸島の国民食。魚(おもに白身魚)を衣で揚げて、大量のチップスと共に食べる。シンプルでボリューム満点。パブで食べても、テイクアウェイで外で食べてもOK。全般に「飯がうまくない」といわれるUKでもこれだけは十分にうまい(はず)。
一番最初にオーストラリアで食べたフィッシュ&チップスがあまりにおいしくなかったのでそれ以来敬遠していたのですが、UK初訪問のときにオックスフォードのパブで食べたそれはまさに大当たり!衣にサクサク感を出すためにエールを入れるのがポイントらしく、どうやらオーストラリアで食べたのには入っていなかった模様。基本的に味が付いていないので自分の好みに合わせた味付けをしよう。もちろん基本はモルトビネガー。酸味によって脂っこさを中和できるので、大きな魚でも意外に完食できでしまうもんです。時に衣がフニャフニャになるまでビネガーをかける人を見ますが、実際に酸味を感じるまでには相当量のビネガーをかけなくてはならないのでためらうことなくかけまくって下さい!
↑最近のフィッシュ&チップスはずいぶんとカラフルになりました。でも、味が微塵もしないのは相変わらず。
↑コレはエビを揚げたScampi&Chips。昼飯に食べるならコレぐらいの量が妥当ですね。
フル・ブレックファースト(UK&アイルランド)
UKにはこんな言葉があります。
「もし英国でおいしいものを食べたいなら朝食を三度とれ」。
サマセット・モームの言葉ですね。これをイギリス人が誇りに思っているのかはわかりませんが、実際にフル・ブレックファーストはうまい。
では、このフル・ブレックファーストとは一体どんなものなのか?
まず中心に鎮座するのは卵料理。目玉焼きが最もポピュラーですが、スクランブルエッグだったりポーチドエッグにしてくれるところもあります。そしてのその脇を固めるのがカリカリに焼いたベーコン、ソーセージ、ブラックプディング、マッシュルームソテー、焼いたトマトにベイクドビーンズ。これだけでも十分にお腹いっぱいですが、もちろんこれにパンやシリアル、フルーツが付いてきます。
はっきりいってこれをちゃんと食べられたらその日の食事はこれだけで事足りてしまいそうです。うまいからといっていっぱい食べすぎてしまうのも考えものですね。要注意なのはこのブレックファーストをビュッフェ形式で出してくれるところ。自分の場合朝からブラックプディングを食べ過ぎて結局一日中腹一杯のまま終了してしまった・・・なんてこともありました。この魅力的な朝食のおかげでUKやアイルランドに行くたびに体重を増やしてしまう人も多いそうな。
↑どうですか、この量。最初の2日は苦労しますが、それ以降は「やっぱりこれじゃないと」になります。ああ、恐ろしい。
ちなみにこのフル・ブレックファースト、地域によって呼び方が変わります。イングランドならイングリッシュ・ブレックファーストですが、スコットランドならその”イングリッシュ”の部分が”スコティッシュ”になります。同じように、マン島なら”マンクス”、ウェールズなら”ウェルシュ”、アイルランドなら”アイリッシュ”となります。ランカスターで食べたときは”ランカシャー”とイングランド中の地域でもさらに細分化するのでもう訳が分かりません。もちろんスコットランドなど他地域で「イングリッシュ・ブレックファースト!」なんて言うのはNGです。
ヴァージン・トレインのメニューには無難に「ブリティッシュ・ブレックファースト」と書かれていました。(←これを「民族のアイデンティティを無視した呼び方だ!」と怒る英国人もいる。)
ブッチャーズ・ブレックファースト(UK)
もしフル・ブレックファーストのボリュームでも飽き足らない人がいたら、ロンドン最古の食肉市場があるスミスフィールドでの朝食をおすすめします。市場内のパブで食べられる名物の”ブッチャーズ・ブレックファースト”を見れば朝ごはんという概念すら崩してくれます。まあ見てください。
目玉焼きがかろうじて朝食の体を保っていますが、ベイクドビーンズもマッシュルームもベイクドトマトもありません。とにかくあるのは肉!肉!!肉!!!ナイフの位置から時計回りに紹介していきますと、まずはソーセージ、次になんとステーキ!大きめにカットして焼いたレバが2枚、よく火を通した腎臓がゴロゴロ、ベーコンに新鮮なブラックプディングというラインナップ。はっきり行ってこれが晩飯で出てきても全く違和感がありません。これを実際に働いている人から言わせてみれば「みんなにとっては朝食だけどウチらにはこれが夕食なのよ!」ということらしいです。納得。
胃を活性化させるためにも朝っぱらからですが1ptのエールが欠かせません。
アイリッシュシチュー(アイルランド)
イモと玉ねぎ、肉に刻んだパセリ。これを鍋に入れて水をくわえて煮るだけでできてしまう。そんな夢のような食べ物がアイリッシュシチュー。比較的簡単にできるうえに作り置きができ、しかも原価も安いのでパブの定番メニューでもあります。
実際に帰国してから自分でも作って見ましたが確かに簡単でおいしかったです。肉は正統派ならばラムを使いますが、牛肉でもOK!スネ肉が煮込み料理に適しています、安いし。
塊から大きく切り出して豪快に食べたいもんです。
(左)アイリッシュシチュー。この直前に首を捻挫して手で頭を押さえながらこれを撮って食べてました。
(右)UKで食べると単に「ラムシチュー」。生のタイムがいい香りでした。手前の黒っぽいものはビーツです。
ビーフ&ギネス(アイルランド)
これもパブミールの定番メニュー。何せパブにはギネスは売るほどありますからね。牛肉、ニンジン、玉ねぎ、マッシュルームを炒めて油を十分に切ってからおもむろにギネスを注いで後は煮込むだけ。これも自分で作ってみましたが、とにかく簡単でうまい!!缶のギネスを2本も料理に使ってしまうというのは少し惜しいような気もしますが・・・ま、いいか。
(左)ダブリンで食べたおそらく一番「オシャレ」なビーフ&ギネス。タルト生地に入ってきました。
(右)皿にパイ生地をかぶせてオーブンに入れて・・・無難だけど、何かが足りないような。
ブラウンブレッド(アイルランド)
アイルランドでパンと言えばコレ。普通のパンと違って生地を発酵させず、代わりににベーキングソーダ(膨らし粉、つまり重曹)を使うのが特徴で、とにかく時間がかからず簡単に焼けるとのこと。アイルランドではステーキなどの肉料理以外には大抵このブラウンブレッドがついてきます。コレと生カキとギネスの組み合わせが個人的には黄金パターンです。
←コレが黄金パターン。 右側にあるパンがブラウンブレッドです。
外皮が固く、中もふっくらとはしていないので食べるときには何はともあれバターが欠かせませんが、いったんバターを塗ってしまえば、その上にのせる物次第で食事からおやつにまでなってしまう非常に使い勝手のいいパンなのです。しかし、何かにつけて必ずついてくるので、連続して出てくると少し辟易してしまうかも。
ハギス(スコットランド)
怪しい料理が盛りだくさんのUKでその頂点に君臨する・・・と書いたらイングランド人やウェールズ人に怒られそうだ。厳密にはスコットランドでもっとも怪しい料理。それがこのハギス。
羊の内臓を粗く挽き、オーツ麦とスパイスを混ぜ合わせて羊の胃袋に詰めてゆでたもの。腸詰料理といえば聞こえがいいがほぼ真っ黒なひき肉は怪しいにもほどがある。ウイスキーをソース代わりにかけ、ジャガイモとターニップ(カブの一種)のマッシュが付け合わせでこれと混ぜ合わせながら食べるのが伝統的な食べ方ですが、ただでさえ怪しいこの料理をなんとかうまく見せようと工夫が凝らされたハギスにもいくつか遭遇しました。
政府公式見解として「ハギスなら馬鹿にされてもしょうがない」と認められたその怪しさに拍手。
(左)これがトラディショナルな食べ方のハギス。全部混ぜればコロッケの中身のようにも・・・思えるかなぁ。
(右)エディンバラで食べたハギス。グリーンピースと香草のペーストにスライスしたジャガイモという珍しい組み合わせ.。色も黒くありません。
キッパー(UK)
ニシンの燻製のことでUKの料理の中でも一番日本人に受けるであろう一品。基本的に朝飯に食べるもののようで、開いた状態のものをオーブンであぶって食べるというところも日本の干し魚と似ています。
海に囲まれているグレートブリテン島なので海の近くに行けばよく売られていますが、特に有名なのがマン島産のキッパー。確かに本場で食べたのは大きくて脂が乗っていてうまかったなぁ。
日本でもアウトドア用の燻製装置があれば簡単に作れそうです。
↑レモンも卵もいいけれど、日本人ならやっぱりキッパーにはあったかいご飯が欲しくなります。
ウナギ(UK)
「うなぎ」が日本人の専売特許だと思っていたら大間違いだった。かつてはテムズ川でウナギが獲れたらしく、イーストエンドで働く港湾労働者の食べ物として重宝されたそうです。というわけで現在でもその名残で数は少ないけれどロンドンではウナギが食べられます。
日本のそれとは違い、基本的には骨ごとブツ切りにしてゆでるだけ。それをあったかいまま食べるのがシチュードイール。マッシュポテトが付いて、”リカー”と呼ばれる怪しいソースで食べますがお約束で味はほとんど付いていないので自分で調節しましょう。
一方煮汁ごと冷やして煮こごり状にしたのがジェリードイール。こちらはゼリーにきつめに塩味が付いているのでちょうどいい(でもゼリーを全部食べきろうとすると逆にしょっぱすぎる。)。酒のつまみにピッタリの感はありますが。店内では酒は売っていないので、どうしても、というのなら、テイクアウェイにして、オフライセンスで酒買って、宿で試してみましょう。個人的にはギネスあたりが無難かと・・・
どちらもかば焼きとは全く違うもの、という前提で食べましょう。個人的にはこれはこれで大好きです。
(左)これがシチュード・イール&マッシュ。この緑色のソースがウワサの「リカー」。蒲焼のタレよろしくウナギ屋の命なんだそうです。
(右)で、こっちがジェリード・イール。ゼリーのおかげで涼しさ満点。でも、輪切りにされた身はとてもウナギとは思えませんな。
スモークドイール。つまりウナギの燻製もありますが、燻製というのは見事に燻製の味しかしないし、ウナギの脂やゼラチンが見事になくなるのでちょっと物足りませんね。
ガモンステーキ(UK)
まず、ガモンとは何ぞや?というところから。日本語で言うと塩漬けして熟成させた豚肉、もっと簡単に言えば「ハム」。そう、何のことはない、ハムのステーキのことです。しかし、たかがハム、と馬鹿にしてはいけない。コレの何がいいかと言えば「塩味がしっかりとついている」こと。芋にも野菜にもメインにもほとんど味のついていない”イギリス料理”の中ではコレだけ味がはっきりしている料理は非常に珍しい。たまに度を越してしょっぱい時もまあ、ありますが・・・惜しげもない厚切りなので食べ応えも満点です。
↑見ようによってはフル・ブレックファーストよりも朝食らしい出で立ち。塩辛さを中和する付け合せのパイナップルはもはやお約束。
ヨークシャープディング(UK)
UKのこのプディングという言葉、実にややこしい。お菓子の名前にもなるし、血の腸詰だってブラックプディングだし、そして、これだ。本来はロースト料理の付け合せとしてチップス代りに小さめのものが付いてくるのですが、本場ヨークで食べたメインサイズのそれはホールサイズのケーキくらいの大きさでその中にローストビーフと野菜とイモが入っていてグレービーがかかっているという代物。本来のローストビーフを頼んだときに皿に盛られてくるものを付け合せであるヨークシャープディングに詰め込んだ訳ですね。日本でいうところのパイのようなサクサクとした触感でこれも日本人受けはしそうな感じ。底の厚い部分はグレービーをしみこませて食べるとこれがまたさらにうまい。
小麦粉、卵、牛乳をざっくり混ぜて、型に流してオーブンに入れるだけで出来るので、ローストディナーを一段豪華にするためにもぜひお試しを。
(左)ロスートビーフ、芋、豆、野菜がまとめて入った特大ヨークシャープディング。
(右)単独でもこれだけ大きい。こちらは正統派のサンデーローストですね。やっぱりグレービーにからめて食べましょう。
ステーキ&エールパイ(UK)
典型的パブ飯ですが、これはUK限定。なぜならアイルランドに行くとビーフ&ギネスになるから。要するにパブにあるものを使った料理なんですね。その証拠に一日でパブを10軒ほど見て回るとそのうち8軒くらいの”本日のパイ”がこのステーキ&エールですから。作り方もビーフ&ギネスのギネスの部分をエールにするだけ。
このパイというのもくせ者で、その響きから連想させるパリパリ、サクサクという言葉を期待してはいけません。日本人の感覚からするとどう見てもタルト生地のような気がします。これでもまだ正確には言い切れていないというのならばUK名物ショートブレッド(味のしないビスケットのようなもの)を薄く延ばしたようなもの、といえば適当かと。まあ、それくらい華のないものだということです。
こういう生地の中に料理を入れてオーブンで温めて出すというその形態がパイというものなのでしょうか?そんな感じです。スープがしみ込んでフニャフニャにならないように結構厚いので、いきなりコレだけ行くとむせますよ。
↑パイで炭水化物、芋で炭水化物、豆で炭水化物、グレイビーのつなぎの小麦粉で炭水化物・・・他の追随を許さない腹持ちのよさ。
パイ&マッシュ(UK)
ロンドンではウナギ屋のことを”Pie&Mash Shop”と言います。もともとウナギ料理と言えばパイ (この「パイ」は上で紹介したステーキ&エールパイでも使われるサクサクじゃないパイのことです)だったらしく、確かに店を見渡すとみんなパイを食べていました。
とにかく港湾労働者が食べる料理だから、安価で腹持ちがいいメニューがいいと言うわけでテムズ川で大量に取れるウナギがパイの中身に選ばれ、現在ウナギが稀少なものになってしまってからは中身が牛肉になって現在に至ってます。
味はウナギにもかけられる「リカー」が重要なのは言うまでもありませんが、パイの中身の肉にも左右されます。と言うより他に味がついているものが無いので味付けは自分で行いましょう。
↑コレがロンドンの伝統的ファーストフード。でも、こんな見た目のデザートもありそう。
1パイ1マッシュ(上の写真、パイ一個とマッシュポテト一杯)で2.3ポンドという値段が何より魅力です。
ジャケットポテト(UK)
ジャケットを着た=皮付きのままオーブンで焼いたジャガイモのこと。なかなかイカしたネーミングです。チップスの代わりにつけあわせで来ることもありますがやっぱり試したいのは単品もの。子供の頭ほどの大きさでボリュームも満点です。これもパブ飯の定番で、単純な炭水化物+濃い目の味付けのおかずというスタイルは日本の丼物にもつながるものがあります。主なトッピングはシンプルなチーズからツナ&マヨネーズ、ベイクドビーンズあたりが定番、腹持ちもいいです。
(左)ベイクドビーンズ+ソーセージをチョイス。まるでラーメンライスのような炭水化物の嵐。
(右)ステーキの後ろにあるのが付け合せ仕様のジャケットポテト。このサイズが「小さい」と思った方、立派なイギリス仕様の胃袋です。
コーニッシュ・パスティー(UK)
名前の通りコーンウォール地方の料理で、もともとはこの地方のスズ鉱山で働く労働者のお弁当として食べられていました。淵の部分が厚くなっているのはここを持って食べることで手についたスズに含まれるヒ素成分がが口の中に入らないようにするためで、食べ終わった後は坑内に捨てられていたそうです。この捨てられた淵が坑内でいたずらをする妖精の空腹を満たして安全をもたらしていると言われています。淵まで全部食べられる現代に感謝しないといけません。
中に入れる具材は多岐に渡りますが、伝統的なのが牛肉、玉ねぎ、ジャガイモ、ルダバガというカブのような野菜を炒めたものや豚肉にリンゴのソースがかかったものなどがあります。UKのもそもそした食感のパイに比べれば生地がパリパリで非常に軽い食感をしていますのでこれも日本人受けはいいのではないかと。
前述の通り鉱山内で汚れた手のままでも食べられるものだったのでその手軽さを売りにロンドンでは駅の構内の小さな店舗でよく売られています。オフィスに着いてから食べるのでしょうか。「労働者」の食事という役割はここでも立派に果たしていました。
↑これは一番小さいサイズ。本来はこれ1個で1食なのでもっと大きいものも有り升。
チキンティッカマサラ(UK)
いつまでもフィッシュ&チップスがUKの国民食と思ってはいけない!そんな感じで今やUKで大人気なのがこのチキンティッカマサラ。骨無しタンドーリチキンことチキンティッカをスパイスを効かせたソースで煮込んだ・・・まあ早い話がカレーですね。
しかし、「何だカレーじゃん」と侮るなかれ。飯をうまく作るということにあまり情熱を燃やさないUKにおいてもインドからの移民の影響で本格的にスパイスを使ったものもあり、とにかくハズレが少ないというのが頼もしいところ。しかもパブをはじめ食べられるところが多いんです。マン島、ダグラス空港のカフェテリアでも食べました。
辛さはそこそこ。あ、本格的なインドカレーが食べたい人はブリックレーンに専門店があるのでそちらへどうぞ。
チキンはムネ肉がメインですが、日本人の感覚からするとこれをモモ肉で作ってくれ!とついつい思ってしまったり。
(左)パブ飯版チキンティッカマサラ。サフランライスとナンで食べます。鍋の横の容器はマンゴーチャツネ、味のアクセントになります。
(右)普通の食堂で食べるとこんな感じ。うん、どこからどう見てもカレーだ。
↑これもパブ飯。串に刺さったチキンティッカにカレーソースをかけるというスタイルもごくたまに見かけます。
これからもまだ見ぬうまいもんに出会ったら随時このページに追加していきます。
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