世界中で食べてきたものたち〜南半球編〜

 緯度が正反対。これだけも文化の違いはかなり違ってきます。生えている植物も生きている動物も全然違うから食べるものの違いも相当なもの。北半球の国々から持ち込まれたおなじみの食文化も長い旅路の末に独自の進化を遂げたものもあります。地球の裏側で出会った興味深い料理たちです。

フェジョアーダ
 ブラジルの名物料理でフェジョン豆と呼ばれる黒豆とラードで炒めた干し肉、豚足、腸詰、豚耳などなどを煮込んだもの。豆の煮汁からくる紫の色と内臓系満載なことから現地の人に言わせて見れば「日本人が苦手な料理」ナンバーワンなのだそうです。いやいや、モツ好き私はのっけからウマイウマイ言いながら食べてましたよ。
 これを食べるときは一緒にラードとニンニクで炒めたご飯、同じくニンニクなどで香り付けしたマンジョーカと呼ばれるタロイモの粉、刻んだケールを皿に盛り、カレーライスのごとく食い進んでいきます。ラードを多用し、味付けも濃いためかなりのボリュームで、消化にも時間がかかるためにブラジル人も伝統的に仕事が半ドンの水曜日と土曜日のお昼にしか食べないそうです。それ以外の日に飯屋に行ってもほとんど見ることはないそうです。
 市場に行くと普通の肉屋のほかにフェジョアーダに使う食材のみを扱う肉屋があり、スーパーでもフェジョアーダのコーナーが独立してあったりもします。まさに国民食。

↑ここまではキレイに盛られていますが、これを無造作に混ぜ合わせて食べるのが一番うまいのですよ。

シュラスコ
 国民食フェジョアーダが日本人にとっつきにくいのにくらべて、シュラスコのなんと分かりやすい事!みんな単純に焼いた肉が大好きなんです。もちろん私も大いに気に入りました。
 ブラジルのシュラスコ屋(シュラスカリアという)に行くとテーブルの周りを多種多様な肉を持ったウエイターの人たちが歩いていて各自の肉をすすめてきて、欲しいと思ったやつだけお願いして切り分けてもらいます。基本的には牛肉がメインで主に脂の少ない部位を使うほか、店によってはラムチョップ、リングイッサと呼ばれるポルトガル式ソーセージ、それに若干の箸休めとしてなのか、鶏のハツなども用意されています。もちろん全部食べ放題ですよ。モモ肉辺りは馴染みがありますが、こぶ肉(ブラジルの牛は遠めで分かるほどのこぶが首の後ろにある)が柔らかく、日本ではあまりお目にかかれないのでおすすめです。
 肉だけではちょっと・・・という人も大抵のシュラスカリアにはサラダバーもあってこちらも当然食べ放題。とにかく動けなくなるまで食べまくることができます。 
 こんな感じでテーブルすぐ横で切ってくれます。しかも思っていた以上の厚切り。→

バカリャウ
 干しタラのことです。スペイン語でもバカラオと呼ばれよく食べられているのでスペイン、ポルトガル語圏の国では割とメジャーな食材のようです。食べ方は水で戻してからスープにしたり、マッシュポテトと混ぜたり、リゾットの具にしたりと多岐にわたります。より生息地域に近いのに衣につけて揚げるくらいしか料理方法の無いどこかの国に比べれば結構料理のバリエーションを楽しめます。
 ブラジルではバカリャウのリゾットとパステル(英語でパスティ)を食べました。いったん乾燥させた物なのでほぐして炒めるだけでは身のパサパサ感はなかなかぬぐえるものではありません。とろみのあるソースを絡ませるリゾットなんかはベストな利用方法だと思いました。

(左)マーケットでカットされて売られるバカリャオ。(右)そのマーケットで食べたバカリャオ入りのパステル(奥)。手前はエビ入り。

ブラジルの寿司
 日系移民の多いブラジル。日本から見て地球の真裏という遠くはなれたところにあることから正油などいくつかの日本食材は現地の日系人がオリジナルで作られています。もちろん地球を半周するうち多少のずれも生じるのは仕方がありません。日本食の代名詞、寿司も例外ではないのです。
 アマゾン川を擁するだけに川魚は豊富ですが寿司ネタにする魚は意外に獲れないようで、ブラジル人が大好きなのはなんと言ってもサーモン。やっぱり脂の乗ったのがお好みのようです。日本で言うところの「上にぎり」なんていったらまさにサーモンづくしになります。
 普通のにぎりだけでなく、ネギトロ風の軍艦、裏巻きも中はもちろんサーモン。他にも「鮭の塩焼きの皮がウマイ」というのを心得ているのか皮をカリカリにあぶってアナゴに使う甘辛ダレをかけていただくものもありました。一番手前の巻き物はというと左はサーモンと一緒にビーツが入っていました。時差ボケの頭が一瞬目覚めるほどに甘かったです。左はのり巻きにパン粉つけて揚げたものです。この辺がさすが外国、実に自由です。他にもこの写真には写っていませんがやはりのり巻きを今度は天ぷらの衣につけて揚げて、クリームチーズと一緒に食べる、なんてのもありました。口直し、なんですかねぇ。
 あ、もちろん江戸前寿司の伝統を残すまっとうなところもありますよ。今回寿司屋に行くということで、どうせ行くならぶっ飛んだ寿司を出してくれるところ、とリクエストしたのは私でしたから。
 味に関しては日本に出稼ぎに行って寿司屋で働いていた日系人や寿司職人の日系移民の人がにぎっているので問題は全くありません。

モルタデラサンド
 イタリア移民によってブラジルにもたらされたモルタデラハム。細かく挽いた豚肉とラードを混ぜ合わせて作られたボローニャの伝統的なソーセージで直径が20〜50センチのものを薄くスライスして食べます。しかし、ある日サンパウロ市営市場の陽気なオッサンが考えちゃったんでしょうねぇ、「せっかく大きいソーセージなんだからケチケチせずにたっぷりつけてやろう」、と。
 結果ここで食べられるモルタデラハムのサンドイッチはこんなになってしまいました。

 ・・・その厚さ、まさに電話帳並み。パンよりハムの方が厚くなっています。意外にハム自体は軽いので健康な青年男性ならば全部食べられそうですが、女性なら二人で半分ずつで充分かと、少しハムを抜いて朝食べて、その抜いたハムをつまみに夜酒を飲むなんてこともできます。ハムだけでは味気ないという人はチーズを挟んでオーブンで温めるとこれまたおいしいです。

アルカショフラ
 あまり日本では聞きなじみの無い名前ですが和名ではチョウセンアザミ、フランス語ではアーティチョーク。そう、アーティチョークのことです。フランス料理で使うものはかなり若いつぼみの状態で使われますがブラジルではもう少し開いた状態のものがよく売られています。茎の部分を含めて茹でたものを食べるのですがつぼみの状態を一個テーブルの前にドンと置かれるとどうしたらいいか一度は迷うはずです。
 食べ方としてはまずは花びらのような部分を一枚ずつむいていきます。むいたものの根元の部分にも肉厚で柔らかい部分があってこれを食べます。少しずつ歯でこそぎながら食べていくので酒のつまみとして最適、貝や魚のアラなどと同じく「食べるのが面倒くさいものほどウマイ」理論を地で行っています。単に茹でただけなので味はありません。現地ではオリーブオイルと塩をつけて食べることが多いようですが、私は断然醤油派です。しかも塩味が控えめで甘味が際立つブラジルの現地メーカーの醤油がベストでした。
 そのままむいては食べ、むいては食べを繰り返し、食べられるところが減ったところで今度はおもむろにつぼみを茎から外し、びっしりとついている繊毛も取り除くと台座部分だけが残り、これで普段料理で使われるアーティチョークとご対面できると言う流れになっています。この文章でわかるかどうかは微妙ですが。さらに言えば日本で見られるアーティチョークをこう食べるのかも分かりませんが。

↑サンパウロ郊外、サンホッケでは毎年秋にアルカショフラとワインのお祭りが開催されます。その会場に植わっていた野生のアルカショフラ

ピラルク
 「アマゾン川に生息する世界最大級の淡水魚。」これくらいの知識は事前に仕入れていきましたが、まさかこれがワシントン条約で保護されている生物とは知りませんでした。でも食べましたよ。
 かつてはアマゾンで盛んに食用とされていたようで基本はバカリャオのように塩漬けにしてから色々調理されるそうですが、日系人のやっている店でなんと刺身で食べてしまいました。アマゾンの得体の知れない魚まで刺身で食べてしまおうというその努力に感謝です。

↑つまもわさびも本格的。しかし、パンがついてくるところがやっぱりブラジル。

 味はというと、淡水魚特有の泥臭さはなく、身はやわらかくてモチモチ。寿司ネタにはなりづらい感じでしたが、そのまま刺身で食べるには十分。白いご飯がほしくなります。
 これも江戸っ子特有の「しょうゆは隅っこに少しだけ」ではなく、大量のつまと一緒に「ブラジル産の少し甘いしょうゆをビタビタに」つけるのがおいしいようです。

これからもまだ見ぬうまいもんに出会ったら随時このページに追加していきます。

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