世界中で食べて来たものたち〜アジア編、その2〜

思えばすっかりオーストラリアよりもアジアに足を運ぶことが多くなってしまい、行く先々で食べた特長ある食べ物が多くなってきたのでここでは香港、台湾、韓国など北東アジア圏で印象に残った食べ物を選りすぐって紹介していきます。深遠な中華料理の一端を垣間見られる料理の数々、まさにワンダーランドです。


蛇羹(香港)
 アジアやヨーロッパは肉食文化が発達していて日本では考えられないようなものまで食べてしまいますが、こと香港では猛毒を持つ蛇ですら食べてしまうのです。子供の時分によく海外紀行もののテレビ番組でよく蛇屋のオヤジが猛毒を持った蛇と仲良く戯れるシーンがあったものですが、現代でもその伝統は生きています。その代表格がこの蛇羹で、これは皮を剥ぎ、骨を取り除いた蛇肉をきのこや生姜等とともに煮込んだもの。深水歩の蛇屋で初めて食べてからというもの最初の一口で気に入ってしまい、その後は一日最低一回は蛇を食べましたね。
 とろみがついていて具だくさんなので一杯食べればそれだけで満足することができます。確かに狭い香港の中でもどんどん数が減っているようですが、大抵の蛇屋は屋号に「蛇」、もしくは「蛇王」の文字が入っているので見分けはつきやすいかと思います。

↑左は湾仔で、右は銅鑼湾で見つけた蛇屋で食べた蛇羹。薄い揚げ煎餅を入れるととろみの中にパリパリが加わってうまさ倍増です。


シャコ(香港)
 コレが香港名物だとは正直知りませんでした。いや、むしろコレを日本以外で食べるところがあるというのも驚きでしたね。そして想像をはるかに超えていました。それがコレ↓

 ええ、遠近法はもちろんあってますよ。そう、香港のシャコはデカイのです。ちょいとしたロブスターくらいの大きさはありますね。上の写真はそのジャンボシャコをニンニクとともに揚げただけのいたってシンプルなものですがかえってその単純さが素材の味を引き出してくれています。別段殻をむきやすくするための切れ込みとかは一切ないのでこの一皿食べる間は酒飲むのも忘れてまさに「死闘」となりますが、食べ終わったときの達成感は格別なものがあります。
 エビカニ好きの方々、超おススメです。

↑普通の寿司屋サイズのシャコももちろんあります。歯のいい人なら殻ごと行けるかも?


腸粉(香港、シンガポール
 米粉で作ったクレープ、みたいなものといえばいいのでしょうか。それにしては結構厚みがありますがね。ツルンと口の中に入っていき、モチモチとした食感で結構癖になります。海老や豚肉が入ったものが一般的ですが、香港では何も入っていないプレーンな腸粉もありました。甘味噌をつけて食べるとちょいとしたスイーツ感覚でも楽しむことが出来ます。主食からデザートまでどんな用途にも使えるあたり、本家フランスのクレープと共通しているところがありますな。


紫菜四宝河(香港)
 2度目の香港で見事にハマッてしまった麺です。どういうものかといえばアッサリとしたスープに魚のすり身団子2種、イカ団子、肉団子で四宝、それに紫菜と呼ばれる海苔が入ったもので、潮州麺の醍醐味をこれ一杯で味わえるなんともお得な一品。「河」とは米で作った平打ち麺のことで、市内にいくつかあるあんまりな日本語メニューでは「きしめん」と書かれていました。まあ、当たらずも遠からずだな。
 日本の味の濃いラーメンに慣れると「味あるのか?」と思うくらいかなりアッサリしていますが、これにラー油を数滴たらすだけでものすごくコクが出てうまいのですよ。同時に辛くなりますがね。

↑左のようにきれいな盛り付けばかりだといいのですが、そうとは限らないのが町の食堂らしい。まあ見た目よりも効率、味重視ということで。
鹵水鵞片(香港)
 香港の料理といえば広東料理。いやいや無視できないのが広東省の東部沿海地方で食べられている潮州料理。海に近い地域の料理ということで魚介類が有名ですが、肉料理ということならば美味しいのが鹵味。スパイスを効かせた鹵水と呼ばれる醤油ダレで煮込んだ料理法、台湾でも夜市の屋台の定番として有名です。この鹵水を継ぎ足して煮込んでいくのでたくさん煮込むほどにどんどん味が深くなっていきます。
 主に内蔵を煮込むのですが、潮州ではガチョウがメジャーな食材で、煮込んだものを冷まして常温でいただきます。脂っこいガチョウも煮込むことで余分な脂が落ちてご飯のおかずだけでなく酒のつまみにもなります。香港で肉といえばやっぱりローストですがたまには趣向を変えてこういうのもいかがでしょうか?

↑ガチョウのほかに皮付き豚バラ、貝、玉子も付いた鹵味の盛り合わせ。ビールに合う!

沙?牛肉河(香港)
  この見慣れない最初の漢字2文字、これで「サテ」と読みます。サテというとマレー半島の串焼きのことですがこれと関係があるのかどうなのか、ともあれ香港に行くと沙??という調味料があります。これをソースに炒めた牛肉入り米粉の幅広麺ということで沙?牛肉河となるわけです。ガイドブックでは潮州料理にカテゴライズされています。こんなこってりした見た目の料理が潮州料理?と思わせておいて食べてみると確かに濃い味わいですが塩味は意外とあっさり。酒飲んだシメにもぴったりです。

↑信じがたいですが本当にこれであっさりとした味付けなんですよ。食べるときは白い服は避けましょう。
鵞掌(香港)
 鶏でも足の部分はモミジと呼ばれ珍味ですが、水鳥のガチョウの足(というより水かき)ももちろん中国では食べてしまいます。難解な漢字メニューの中で何とかこの字を見つけわらをもすがる思いで頼んだのがガチョウの水かきの醤油煮でした。
 プルプルの食感と軟骨の歯ごたえは変わらず、鶏に比べて肉付きもよく大きいので結構食べるところは多いです。骨が多いので食べづらいのも同じですがこういう食べづらいところほどおいしいのは世の常。酒飲むのも、ご飯を食べるのも忘れて格闘すると食べた後の爽快感はたまらないものがあります。

↑水かきのほかシイタケや干貝のほかに下に白菜もひかれていて結構ボリュームがありました。うまみがたっぷりで飯が進む。

(虫可)仔煎(台湾)
 シンガポールのオイスターオムレツが台湾ではこうなります。コレで「オアチェン」と読み、夜市を歩くとよく店のおっさんから「オアチェン、オアチェン!」と声をかけられます。シンガポールのものとの最大の違いは、ジャガイモのでんぷんの粉をといてカキをまとめるためにオムレツとは言い難いほど生地がもっちりとしていることと、酸味と塩味の利いた赤いソースが問答無用でかかってくること。このソースはオアチェン屋の命だそうで各店で微妙に味に違いがあります。
 どの夜市でも有名店があり、ボリューム的にも軽い部類に入るので屋台飯フルコースの前菜にピッタリです。

↑見た目はまさにオムレツ。食べるとカキのうまみが口いっぱいに。貝好きならばたまらない一品。

臭豆腐(台湾)
 総じてけったいな食べ物や、くさい食べ物が好きなのですが、そんな私が台湾に行って一番食べたかったのがこの臭豆腐。豆腐を発酵液に漬けたもので、数ブロック先からでもその存在を確認できる強烈な匂いが特徴です。日本で言うと、そうですね、くさやに近い匂いをしています。揚げて酢漬け野菜と一緒に食べるのが一番一般的でこれならあまり匂いを気にすることなく食べることが出来ます。少し物足りない感じもしますが、ちょうど揚げ出し豆腐を食べる感覚です。文句なしでうまいです。
 一方上級者向けなのが煮たり焼いたりしたもの。残念ながら煮たものは食べられませんでしたが(他においしいものが大挙して待機していただけで決して避けていたわけではありません)、焼いたものは鼻を曲げながらくさいうまいくさいうまいと食べてました。
 まあ、匂いはともかく食感は少々固めの木綿豆腐ですよね。

↑左が揚げたもの、右が焼いたもの。この写真見るたびにあのにおいが思い出されます。

牛肉麺(台湾)
 牛肉の塊がゴロゴロ入った汁そば。それだけで胸踊るものがあります。牛肉は煮てあるものなのでどちらかといえば筋っぽい肉を使っていてコレが噛み応えもすじのプルプル感もあって実にうまいのです。最初はベトナムのフォー・ボー(牛肉のフォー)のように薄くスライスした生の肉にスープをかけてしゃぶしゃぶ感覚で食べるものかと思っていましたが、いい意味で裏切ってくれました。肉のボリュームの割にはスープはアッサリしていましたね。
 偶然なのか2軒食べたところはどちらもコシがしっかりとした平打ち麺でした。やっぱり牛肉の存在感に対抗するためでしょうか。

↑見た目にたがわぬ満点のボリュームがうれしい牛肉麺。おなかをすかせてから是非。

魯肉飯(台湾)
 台湾名物といってはずせないのが豚肉そぼろかけご飯ことこの魯肉飯。見た目は日本のどんぶり飯に近いですが、それだけで腹いっぱいにするのはもったいない、ということなのか、どこに行っても茶碗に盛られた小さめサイズもあり、おかず+魯肉飯や屋台で散々食べ歩きした最後に締めで魯肉飯、なんて楽しみ方が出来るのがいいところでした。意外に満腹でも食べられてしまうのですよ。

↑今回は排骨をおかずに魯肉飯をかきこみました。

胡椒餅(台湾)
 台湾の夜市ではいすに座ってテーブルを囲んで食べるのはもちろん、買ったその場で立ったまま、あるいは歩きながら食べられるメニューが豊富なのも魅力のひとつです。一口餃子やエリンギの網焼きなどわりとシンプルなものがうまかったですが、一番をあげるとすればやっぱりコレです。コショウたっぷりの肉とねぎを生地に包んで焼いたもので、とにかくしたたる肉汁がとってもジューシー!それを受け止める生地も厚く、うまみがしみこんでいくので360度どこから食べても損はありません。はっきり行って味を堪能するのに夢中で歩くのも忘れてしまうほど。(食堯)河街夜市の入り口すぐに有名店があり、そこで食べたのですが、暗くなってからだと大行列になってしまいます。回転はいいですが、我慢できない人は明るいうちに。

↑右の写真のようにその場で焼かれるのでいつでもできたてが楽しめます。とっても熱くてジューシー。

麺線(台湾)
 屋台飯の食べ歩きのシメにピッタリな一杯。とろみのついたスープに細麺の組み合わせで麺の食感を楽しむというよりはスープごと飲んでしまうという感じですかね。写真は豚のシロが入った大腸麺線ですが、他にもカキの入ったものなどいくつかのバリエーションがありました

カンチョニョッ(韓国)
 「カン」とは牛レバ、「チョニョッ」とは牛のセンマイ。つまりレバ刺しとセンマイ刺しの盛り合わせのこと。焼肉屋でおなじみのメニューですが、一度茹でるセンマイはともかくレバ刺しは残念ながら日本では食べられなくなってしまったので、今となってはコレを食べるためだけでも韓国に行く価値はあると思います。
 食べ方は両方とも塩の入ったごま油につけて食べます。日本では酢味噌で食べるセンマイに関しては少々物足りない気もしますがセンマイ本来の味がしっかりしていて意外にパクパクといけます。コレに合う酒はビールはもちろんですが、韓国特有のソジュ(焼酎)やマッコリとあわせてもなかなかのもの。口の周りをレバの血で真っ赤に染めて貪り食いましょう。

↑調理前の状態ではありませんよ。切り方も大きく食べ応えは満点。
チョッパル(韓国)
 コレも日本でもおなじみ豚足のこと。しかし、味付けがなされた状態で調理されていることが日本との大きな違いです。ドイツのアイスバインも一人前で相当な量でしたが、韓国でもやっぱり足一本と思われるボリュームでした。しかも写真のコレが一番小さいサイズだそうで。はなから一人で食べるものではないというわけです。もちろんコレにキムチ、スープがサービスでついてくるのでボリュームはさらに倍増。ただしうまければどれだけ量が多くても食べられてしまうのは万国共通です。ちゃんと完食しましたよ。

↑ドンと盛られた山盛りの肉、心弾むものがありますな。
コルベンイ(韓国)
 辛いうまい辛いうまいで酒のつまみに事欠かない韓国でビールのつまみによく合う一品。バイ貝の仲間の巻き貝で、生の貝というわけではなく缶詰です。しかし缶詰だからとバカにしてはいけない。結構歯ごたえもあってうまいんですよ。これに「ポ」、と呼ばれる干し魚、山盛りの細切りネギがどっさり乗っかり、さらに大量の粉唐辛子と、同じく大量のおろしニンニクがのってきてこれを混ぜながら食べます。

↑テーブルに来た段階ではねぎと粉唐辛子とおろしにんにくしか見えません。メインのコルンベイはねぎの下。

 コルベンイ自体はこれだけの唐辛子がかかっていてもそれほど辛くはないのですが、とにかく山盛りのネギが切ってそのまま盛るものだから辛い辛い。ポも辛く味付けされたコルベンイの煮汁を存分に吸ってこれも辛い辛い。この辛味を和らげるために付け合わせで卵焼きがついてきますが、正直ネギのおかげでいくらあっても足りません。それを分かってなのかこの卵焼き、恐ろしいことにおかわり自由です。ちなみにネギも、おかわり自由です。つまり、これでエンドレスで食べることができるので「ちょっと高いかな?」とも思える一皿25000ウォンはむしろ安いです。そして、エンドレスで食べていくと、ビールのつまみどころか、立派な食事にもなってしまいます。

↑よく混ぜてから食べましょう。卵焼きも驚きのビッグサイズ。単体で食べてもかなりうまいです。

 ちなみにコルベンイの缶詰は日本でもネット通販や韓国食材の店で買うことができ、気軽に作ることができますが、ネギは切ったら水に晒してちゃんと辛味を抜いてから使いましょう。さもないと本場並みの辛さになりますよ。
韓国の刺身
 韓国では刺身のことをフェと言います。漢字では「膾」と書きます。おなじみのユッケも漢字では肉膾(ハングルだと確かにyuk-hweと書いてある)と書くそうです。儒教文化が色濃い韓国では孔子が膾を好んで食べたということで生食に寛容なところに、日本統治時代に刺身が持ち込まれて独自に進化してきました。
 日本海(韓国風に言えば東海)と玄界灘(こちらは西海)に囲まれているという恵まれた環境にあるので獲れる魚介類も豊富。赤身、白身の魚、貝にイカ、タコと日本と同じような刺身が楽しめます。強いていえば青魚はあまり刺身にしないですかね。しかし、日本ではメジャーではないホヤやケブルのような見た目「ゑ」?というものも刺身にしてしまいます。

(左)ボリューム満点の刺し盛。マグロ、サーモンはわさび醤油で、白身や貝はサンチュに包んでチョコチュジャンで。
(右)日本では高級食材のアワビも一個10,000ウォンで楽しめます。新鮮なのでもちろん肝まで食べられますよ。


 日本との最大の違いはやはりというべきか、包むこと。サンチュ、エゴマの葉、韓国海苔と豊富な素材でとにかく包む包む包む。味付けもテンジャンや、コチュジャンを酢と合わせたチョコチュジャンがメイン。これが白身の魚とよく合うんです。 もちろん日本式のわさび醤油でも食べられますが、そこはヤンニョム(薬味)好きの韓国、ついてくるワサビの量が尋常ではありません。日本だと「これは、罰ゲームなの?」というくらいの量です。これを地元の人は全部醤油に溶かして食べています。辛いって!
 手軽に楽しみたいなら広蔵市場の刺身屋台。度胸があってとにかく新鮮なものを食べたいならソウル最大の魚市場、鷺梁津水産市場で買った魚を刺身にしてもらって食べましょう。
ホンオフェ(韓国)
 発酵学者の小泉武夫先生の本で読んでから一度は食べて見たいと思っているものはたくさんあって、その中の一つが木浦名物の発酵させたエイの刺身、ホンオフェ。ついにソウルで出会えました。とはいえ、今回食べたのはさすがに本場の強烈な匂いのものではなく、あまり発酵させていないもの。
 鷺梁津水産市場ではエイも一匹丸ごと売られていますが、さすがにそれでは量が多いのですでに刺身になって皿に盛られたものを購入。10000ウォンでした。さっそく市場内の飯屋でトライ。

↑見た目以上に手強いのがホンオフェ。これで2〜3人前といったところでしょうか。
普通の白身の魚ならザッとまとめてすくって食べてご飯をかき込みたいところですが、そうは問屋がおろしません。


 身は軟骨質でコリコリしていてこれは確かに癖になる食感。そして噛んでいるうちにきましたよ、エイ特有のアンモニア感が。口の中がえもいわれぬ空気で満たされ、深呼吸するとそれが鼻にも充満してきます。発酵が進んでいないものでこれなのだから、本物は一体どれほどのものなのか?本当に深呼吸したら気絶するかも。これくらいならむしろ鼻息荒くいきたいですね。
 強いアルカリ性の食べ物なので、それを中和する酸性のもの、酸っぱいキムチやマッコリが本当によく合います。正油、ビールは全くいけません。このアンモニア感のおかげで刺身にしてはそれほどパクパクといけるものではありません。飯のおかずにもなりません。結婚式などのめでたい席で振る舞うもの、と本には書かれていましたが、確かに一匹丸ごとはそれだけ人が集まる席でないと食べきれないんでしょうね。じっくりかみしめて楽しむ珍味的な位置にあるのだと思います。
 次は木浦行って本物食うぞ!
オゴルゲタン(韓国)
 韓国料理のアイコンといえば若鶏を丸まる一羽、もち米やら高麗人参やらを詰めて煮た参鶏湯。実はこれまでレトルトのものしか食べたことがありませんでした。これはこれでまあうまいのですが、本場の、しかも専門店のものはどれくらいうまいのか試してみようじゃないかと、二度目のソウルでいざ挑戦。そしてどうせ食べるのならちょいとグレードの高いものをいってみよう、と頼んだのが烏骨鶏で作ったこのオゴルゲタン。ふつうの参鶏湯の1.5倍の値段がします。

↑澄んだ鶏のスープに浮かぶ真っ黒な烏骨鶏。コントラストはもちろん、食べてもうまいんです。

 来てみて驚き、何と鳥が真っ黒。烏骨鶏って皮まで真っ黒なんだ。ちなみに身をほぐしてみると肉も骨も黒っぽい。何だか見た目だけで、「栄養あんぞバカヤロー!」と言わんばかり。スープも「ここは地獄?」と言わんばかりにグラグラ煮立っていてその存在感はまさに圧倒的。とにかくいきなりのメインイベンターの登場に湧き立つばかり。
 いざ食べ始めるとまさに大格闘。4月の20度もいかないうららかな陽気の中にあって、体からはまあとにかく汗が吹き出ること。しかし、肉は最高の一言。旨味の詰まったモモと手羽でまず満足。そして、ガンガンに煮込んでも全く煮崩れないムネ肉に感動。澄んだスープもひとつまみの塩で味が引き立つほどにダシがきいていて、器を持ち上げてはいけない韓国で、それを完全無視してゴクゴク飲み干して見事完食。食べ終えた時の充実感は今まで旅行先でいろいろ食べてきた中でも指折りのもの。店から出て感じる風が実に清々しかったです。これで今年は病気知らずでしょう。
 結論としてはレトルトは本物の足元にも及びませんね。こりゃ参鶏湯、いやオゴルゲタン食べるためにソウル行く価値は十分ありですな。
コッテギ(韓国)
 このサイトをご覧になっている勘の鋭い方なら私が肉好きなのはお見通しでしょうが、それ以上に私はもつ好きでもあります。ああ、それもお見通しですか。ええ、肉ともつが同時に出てきて選ばなければならないとき、迷わずもつを選ぶクチですよ。焼肉屋でもカルビやロースには目もくれずミノや子袋を食べまくるくらいです。まあ、もっと大雑把に言えば正肉以外の部位をこよなく愛しているわけです。そんな私が見た目で一発で気に入り、食べてはまってしまったのがこのコッテギ。

 これは何なのかというと「豚の皮」。沖縄料理でもおなじみのミミガーからコリコリを引いてモチモチを加えた食感がクセになります。自宅で韓国名物サムギョプサルを作って食べるときももどうせやるなら皮付きのオギョプサルの方がいい、と思っているくらいですから。その皮だけが独立しているコッテギが嫌いなわけがないのです。

 色は結構どぎつい赤色をしています。食べると確かに辛いのですが、ビールが進む位の適度な辛さの中に甘みもあって一度食べ始めると箸が止まりません。ご飯や麺のお供にはなりづらく、やっぱりこれ一点で勝負!という実に潔いメニューです。
 ちなみのこの写真の一皿はすべてコッテギではなく3分の1ほどは「もみじ」、つまり鶏の足を同じ味付けで煮たものです。プルプル、モチモチのコッテギに対して、やや歯ごたえがあるところが絶妙なコントラストになっていて、食べ飽きることもなく、これだけの量も苦もなく平らげられました。

↑ソウル屋台の特徴は皿がビニール袋でカバーされてます。洗う手間も省けるし合理的かな、と。

ノガリ(韓国)
 韓国で酒といえばマッコリやソジュ(焼酎)ですが、気軽に飲める酒としてビール(韓国語では”メクチュ”)ももちろんメジャーです。いや、屋台飯ばっかり食べる一人旅の身にはメクチュこそが最も親しみやすい酒なのです。当然屋台では瓶ビールなのですが、生ビールが飲めるところもあって、それが「ホプ」(ミュンヘンの「ホフブロイハウス」の影響ですかね。あ、韓国語に”f”の発音はないそうですよ。)と呼ばれる大衆ビアホール。ここでは路上に出したテーブルも埋めつくされるほどの老若男女が夜ごと生ビールを飲んで狂乱の宴を楽しんでいます。

↑見た目も味も、シンプル・イズ・ベスト。日本でも通販で販売されているので思わず買ってしまいましたよ。

 まあ、前置きが長くなりましたが、そのホプでビールのつまみとして、いやお通し代わりとして半ば強制的に出てくるのがこのノガリです。写真で見ればわかるとおり干し魚です。韓国でも干鱈はそれになりに知られた食材ですが、このノガリは鱈の幼魚を干したもの。いわゆる塩漬けの後に干されたバカラオのような干鱈と違い、ノガリにはほとんど塩味がしません。しかし、干しているだけあってうまみは凝縮されていて、コチュジャンをつけて食べるだけでウマイカライウマイカライでどんどんジョッキが空になっていきます。辛いのが苦手な人向けにコチュジャンの代わりにマヨネーズを出してくれるホプもあるそうですよ。頭の先から尻尾まで食べられ、実測ではこれ一尾で500mlのジョッキが三杯いけました。(つまみが無いと飲めない私では参考になりませんが・・・その前にビール2本とソジュ1本飲んでいます。)

 このノガリを炙る香ばしい匂いはホプの看板代わり。ビールのつまみには乾きもの、というのが日本だけではなかったということがわかっただけで、このノガリに出会った価値はあるというもんです。

コムチャンオ(韓国)
 韓国でしかお目にかかれない海産物の代表格で、特に釜山の特産品。日本名はヌタウナギというそうです。「ウナギ」とはいっても日本でおなじみの鰻とはまったくの別種で、どちらかといえばヤツメウナギと近縁種にあるそうです。ウナギ好きの江戸っ子として「ウナギ」と名がつくからにはこれを食べなくては気がすまない。しかもこの間テレビで「鉄腕DASH」を見ていたらリーダー城島も好物だというではないか。これはさらに期待が膨らむ。すでに何度かのソウル訪問で南大門のポジャンマチャには豚肉やチュクミ(イイダコ)に並んでこのコムチャンオが並んでいたのは確認できていたので、4回目にしてついに顔合わせが実現しました。
 シンプルに塩だけで焼く食べ方もあるのですが、そこはポジャンマチャなので、調理方法はビールがどんどん進む辛子炒め。味は淡白ですが、プリプリシコシコの歯ごたえがたまりません。これはクセになる食感です。味付けはかなり辛く、ビールが追いつかないほどでしたけどその食感だけで食べる価値は十分にありかな、と。辛さを中和する目的も含めてマッコリをお供にするのもオススメです
 韓国らしい海産物が食べたい。しかしホンオフェやケブルはちょっと・・・という人におススメです。

↑真っ赤です。ネーミングは「辛そうに見えて実際辛いコムチャンオの唐辛子炒め」でどうでしょうか?


スンデ(韓国)
 腸詰料理というのは結構世界のいろいろなところにあってドイツのソーセージはテッパン。UKのバンガーもお気に入りです。肉が入っているのはもちろんですが血の腸詰というものも大好きで、ブラックプディングなんかは朝から胃もたれしてもいいや!とばかりにたくさん食べてしまうクチです。そんな腸詰好き垂涎の食べ物がすぐお隣の韓国にもあってそれがそのスンデ。これも血の腸詰なのですが、たくさんの香辛料の他にタンミョンと呼ばれる春雨やもち米が入っていてブラックプディングのように重くないのがいいところ。油を使わず、蒸してあるものなのでそれも意外に軽妙な食感を生み出す大きな要因です。広蔵市場で食べたスンデはかなりのボリュームでしたが意外とパクパクと行けました。これも一口食べて一気に気に入ってしまった食べ物のひとつです。なんで今まで食べなかったんだろう?

↑見た目は若干アレですが食ってみるとこれがうまい。上に載っているのはレバです。

 このスンデ、他の料理にも応用が効くらしく、その代表格がスンデをスープにぶっ込んだスンデクッ。豚でとったスープにスンデだけでなくその他諸々の豚のうまいところが入っていて味もお得感も抜群。スンデにも味がよくしみ込むように中の詰め物は餅米でした。

↑スンデは見えませんがスンデクッです。ご飯に白菜キムチにカクテキでこれが韓国の定食。

サンナクチ(韓国)
 リアクション芸人が韓国に行くと何を食べるか?グラグラに煮えたぎった参鶏湯もベターですが、もっといいものがこの国にはあります。それがこのサンナクチ。直前まで水槽で動いていたタコをおもむろに取り出し、無慈悲に包丁でバンバン叩き切るだけというなんともシンプルかつ豪快な食べ物です。サンナクチにするのはテナガダコという種類のもので、刺身で食べるならあまり大きくない状態がいいらしく旬は秋から冬にかけての寒い時期なのだそうです。道理で春や夏にはあまり見なかったわけだ。
 皿に盛られて出されたときは切り刻まれているにもかかわらずタコはまだまだ勢いよくウネウネと動いています。そしてそのまま口の中に放り込みます。そうすると口の中で吸盤が吸い付いてきて、これが楽しいの何の。同行者がいるときにはここでどういうリアクションを取るかが腕の見せ所でしょう。しばらくすると動きに精彩が欠けてきますが、皿にビタンと叩き付けるとやや持ち直します。とにかく新鮮なうちが勝負の食べ物です。
 私はこれを南大門市場のポジャンマチャで食べましたが、空が明るいうちにこれを食べているとまるで見世物です。

味?いやー、普通にタコでしたね。

↑タコは意外に塩味を持っているので実のところごま油かけるだけでもうまいのです。
フェネンミョン(韓国)
 韓国料理の中でも人気のメニューである冷麺。朝鮮半島の中でもバリエーションがあって、その中でも平壌冷麺と咸興(ハムフン)冷麺が有名なんだそう。平壌冷麺はそば粉が使われていてスープと一緒に食べる水冷麺(ムルレンミョン)で一方咸興冷麺はこのフェネンミョンでよく知られています。
 「フェ」が付くことからも分かるようにこれは刺身入り。何の刺身かというとエイの刺身で、ホンオフェのように醗酵させたものではないのでクセは特にありません。これを辛いたれを一緒に混ぜて食べます。盛り付けはきれいに来るのですが、写真を撮る間もなく店員さんにハサミで麺を切られて混ぜられてしまったのでこんな写真しかありません。これに各自お好みで砂糖やお酢をかけて味を調整してさらに混ぜてから食べます。
 軟骨質のエイの刺身がコリコリで噛み応えがあり、タレのうまみがより感じられます。一方麺は噛み切りにくいタイプの麺なので平壌冷麺のようなツルツルとのど越しよく食べることは期待してはいけません。よく口を動かすので量は少なくても食べたという実感が大きいメニューです。
 同じ冷麺を食べるなら韓国でしか出会えないフェネンミョンはおすすめですよ。

↑後ろのやかんはお茶代わりのユクス(牛のスープ)。あっさりしていて辛味も和らげてくれます。

ポシンタン(韓国)
 韓国で食べ物でチャレンジするときに避けては通れないのが、ケコギ(タンコギとも言う)を使ったポシンタン。賛否ありますが、その土地で食べられているものならばチャレンジしない手はない、というわけで五度目のソウルでついに食べてきました。
 ポシンタンのお店はソウルオリンピックに日韓ワールドカップと世界的イベントがあるたびに裏通りに追いやられ観光客には行きづらくなっていますが、食べに行った日が韓国の土用の丑の日ともいうべき伏日で、スタミナの付くものを食べようという昼休みのサラリーマンで店は盛況でした。
 注文してしばらくするとやってきたのはグラグラと煮えた赤いスープ。スプーンですくい上げると、ありましたよ、ケコギがゴロゴロと。早速一口放り込んでみると、柔らかく脂も少なめ。煮込んでいるのに肉はパサつくことなく、筋張ってもいないので非常に食べやすいです。一緒に皮も入っていましたがこちらはゼラチン質でプルプル。食欲が増進されるちょうどよい抑えめの辛さで、強火で短時間で煮込んだからか匂いも気になることはなく一気呵成に平らげてしまいました。
 とりあえずはおいしかったということで。ま、食べたい人だけチャレンジしてみてください。

↑グラグラと煮えたポシンタン。動画じゃないのが残念。

カルグクス+マンドゥ(韓国)
 韓国が日本とも中国とも歴史的につながりがあることを感じさせてくれる食べ物です。まずカルグクスは和訳すると「切った麺」となるようにうどんのように伸ばした生地を包丁で切ってゆでる麺のこと。韓国冷麺は生地を穴の開いた筒に詰めて押し込んで麺状にするので四角い断面の麺は珍しいのです。食感もうどんに近く、コシがあってツルツルと行けます。
 一方のマンドゥは饅頭に音が似ていますが餃子のように餡を小麦粉を練って作った皮で包んだもの。餡の中身は肉、ニラ、キャベツがメインで、やはり韓国だからキムチも入っています。冷麺屋では副菜としてゆで上げたマンドゥが売られています。スープに入れることもあり、今回広蔵市場で食べたものはこのカルグクスとマンドゥが一緒に入ったボリューム満点のものでした。写真の通り野菜も海苔もたっぷりで酒飲んだ締めにはもう間違いない一杯です。


(左)アジュマがカルグクスを切っているところ。これも動画じゃなくて残念。
(右)山と積まれたマンドゥ。後ろの方にある赤っぽいのがキムチ入り。


湯包(上海)
上海の代表料理の一つがこの地発祥の小籠包。もちろんこれは外せないので食べましたよ。ただし、ここで取り上げるには当たり前すぎる。上海でしか見かけないものといえば小籠包をさらに進化させた湯包。
 大きさはこぶし大、日本の肉まんより気持ち大きいくらいでしょうか。そして中身は、スープしか入っていません。別に具を入れ忘れたわけではありません。包子の中でアツアツに蒸されたスープを頂点から突き刺したストローで飲むというわけだからこれでいいのです。この時ストローをむやみやたらに動かすと皮が破けてしまうのでなるべく動かさないのが上手に飲むコツ。もちろんスープを飲み終えたら皮も食べましょう。生地にいい具合にスープがしみています。

↑酒のつまみに混じってドリンク感覚で湯包を。ちなみにこれでも昼飯です(奥はかみさんの)。

紅焼肉(上海)
上海料理は北京、四川、広東といったほかの地方の料理に比べるとキラーコンテンツともいえるべき料理が少なくいまいちイメージがわかなかったのですが、上海料理の店で一番のおすすめ商品だったのだからこれは純然たる上海料理といってもいいでしょう。中国でただ「肉」と書けば豚肉なので豚肉を使った料理、上海風の豚の角煮ということになります。
 東坡肉のようなじっくり煮込んだトロトロ柔らかい角煮ではなく 中々のかみごたえがあります。個人的には肉はしっかり噛んでナンボだと思っているのでその点でかなり気に入りました。煮汁を詰めるらしく見た目テッカテカで味が濃そうですがそんなことはなく酒のつまみにも飯のおかずにもなる程よい味付けです。
 この煮汁で肉だけ煮るのはもったいないということなのか一緒に卵を煮て添えるのが定番なんですが、表面の味がしみてちょっぴり突っ張った感じの質感がなんともいえません。

↑大皿にゴロンと盛って出てくるところに親近感があります。一人旅でもこれ頼んで酒から飯まで十分いけますな。

火鍋(上海)
広い中国の中で地域を問わず人気がある一品、真っ赤で花椒がこれでもかと効いている麻辣湯と白湯が間仕切りのある一つの鍋に入った鴛鴦火鍋を食べました。実は遥か昔シドニーに住んでいた時にも何度か食べたことがあって、当時はまだ連れて行ってもらう身だったから言われるがままに赤い方をヒイヒイいながら食べたもんです。おかげで一気に辛いのが食べられるようになりましたが。最初はその辛さに頭を撃たれるような衝撃を受けますが、次第に食べていくにつれこの辛さがやみつきになるのですよ。
 中国の鍋の具と言って思い浮かぶのは羊肉ですが、実際のところは肉も魚も野菜も一緒くたに煮てしまう結構豪快なところがあります。薄く切られた肉や火が入るのが早い野菜は食べるたびに加えていって、煮ても崩れないきのこや凍豆腐、腐竹(これがお気に入り)は早めに入れておいて好きなタイミングで取れるようにしておくといい感じです。締めの麺類も充実、白い方のスープでだしの味を楽しむもよし、赤いスープに入れてむせながらすするのもよしです。
 オーダーシートで注文するところが多いので、簡体字さえクリアできれば言葉はできなくても楽しめるのもポイント高いです。

↑大陸らしくおおらかに細かいルールは無しで行きましょう。ただしお玉は赤白ちゃんと使い分けましょう。

鶏鴨血湯 (上海)
 「血豆腐」。この字を見て何だそれ?となりますが、これは文字通り鶏や鴨や豚などの血に塩を混ぜて蒸し、豆腐のように固めたもの。血の腸詰の一種ともいえますが、スパイスも穀物なども入らず絹ごし豆腐のようなつるんとした食感で血の臭いもほとんどしません。特にこの堅すぎず柔らか過ぎずの食感がいいんです。ブーダンノワールにブラックプディングにスンデを食べてきた身には全く抵抗はありません。
 この血豆腐をシンプルな鶏のスープに浮かべたのが今回食べたこの鶏鴨血湯。非常にあっさりした味わいで起き抜けに飲むのにもぴったりです。日本で言うところの豆腐の味噌汁的なポジションといえばいいでしょうか。さほど特別な食材でもないらしく遭遇する確率は高いかと。

↑このシンプルさ!作るのも簡単でしかも安い。これだけでは腹いっぱいにはならないのでメインと一緒にどうぞ。

これからもアジアの国に行ってまだ見ぬうまいもんに出会ったら随時このページに追加していきます。


世界中で食べてきたものたち
[アジア編その1] [UK&アイルランド編] [ヨーロッパ編] [南半球編]
[貝は人を幸せにする] [世界の片隅で肉を喰らう] [エビで巡る世界の食卓]

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